第四回 日本カンボジア研究会(2010年7月4日)発表要旨(5)
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高橋美和(愛国学園大学)
「カンボジア仏教寺院と寺院止住者の現在:コンダール州の調査データからの予備的考察」
仏教寺院に住まう人々とは一体誰なのか? カンボジアの寺院には出家者のみならず修行者その他の俗人男女も止住することが多く、若いうちに還俗する僧侶や後年再出家したりすることがごく普通であるなど、俗人生活と寺院生活には、概念上の明確な区別はあるものの、実態としてはかなりの相互乗り入れ的状況がある。報告者の関心は、出家者と俗人修行者、仏教寺院と(俗人の)家族生活といった、相対するカテゴリーの両方を視野に含めてカンボジアの実践仏教を理解することにある。
これまでライフヒストリーの聞き取りなど定性調査を中心に行ってきた一方で、1999年と2009年に同一地域での寺院悉皆調査を実施し、寺院と寺院止住者に関する定量的なデータを収集する機会を得た。調査地コンダール州キエンスヴァーイ郡は、プノンペン市に隣接した都市近郊農村地域である。豊富な布施が集まり止住者が100人を超えるような大規模寺院や、仏教教育中等課程が開講されている寺院なども擁し、小林報告におけるコンポントム州の状況と対照が際立つ諸側面が見出せよう。本報告では、両年の調査データの比較をもとに、仏教復興後の寺院および止住者(出家者と俗人の両方)の実態とこの10年間の変化について考察を加える。考察ポイントとして、・新設寺院の状況 ・寺院内実践から見た寺院類型・寺院止住者の属性・寺院での仏教教育課程開講状況の変化と寺院選択と寺院移動などを予定している。
なお、1999年の調査は科研「東南アジア上座部仏教社会における社会動態と宗教意識に関する比較研究」(代表:駒井洋)、2009年の方は科研「大陸部東南アジア仏教徒社会の時空間マッピング:寺院類型・社会移動・ネットワーク」(代表:林行夫)によるものである。後者は現在進行中であるため、現時点での中間報告的なものとなることをお断りしておく。