2010年6月11日

7/4 日本カンボジア研究会、発表要旨(4)小林知

第四回 日本カンボジア研究会(2010年7月4日)発表要旨(4)
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小林知(京都大学)
「カンボジア仏教寺院のプロファイル分析:コンポントム州における調査報告」

 本発表は、上座仏教徒社会カンボジアの現状とその特徴を、2000年と2009年の農村地帯における寺院の広域調査で得た資料を用いて描きだす。カンボジア、タイ、ラオス、ミャンマーと中国およびベトナムの一部地域では、上座仏教を信仰する人々が人口の大多数を占める。また、その地域で暮らす人びとの日常生活の様々な局面では、毎日のように、仏教徒としての実践が目に見える形で観察できる。カンボジアについては、さらに、憲法が上座仏教を国教としている。以上は、仏教徒としてのカンボジアの人々の宗教実践の理解が、その社会と国家だけでなく、東南アジア大陸部全体の社会編成の特徴を考察する上で最重要の課題のひとつであることを示唆する。
 発表者は、1999年以降、カンボジアの国土のほぼ中央に位置するコンポントム州の農村社会で人類学的な調査を続けてきた。さらに、2000年代半ばから、今日のカンボジア政府が国内人口の圧倒的多数が信仰する仏教に対してどのような制度を定め、いかなる政策を実施してきた(いる)のかも調査してきた。以上の調査活動の成果は、ポル・ポト時代に断絶したカンボジア仏教の復興過程の特徴を、制度と実践の両面から検討する論考としてすでに公表済みである。ただし、以上の研究は、ジョン・マルストンやアレクサンドラ・ケントら欧米の人類学者が刊行した最近の論集と同じく、定質的な視点からの考察に偏っていた。すなわち、カンボジアの人々が仏教徒としての宗教実践をおこなう場/環境そのものの特徴や、出家者にとっての出家の動機など、制度と実践が位置づけられる環境そのものを定量的な視点から検討する作業を欠いていた。
 本発表は、発表者が2000年と2009年にコンポントム州で実施した仏教寺院の広域調査の成果にもとづき、当該地域における寺院と、そこに止住する出家者の属性を、定量的なデータを中心に多角的な視点から分析する。そしてそこから、カンボジア国内の農村社会に生きる人々の宗教生活の全体像に迫るとともに、隣接する東南アジア大陸部の他の国と地域に広がる上座仏教徒社会に向けた比較研究の方向性を示すことを目標とする。