第四回 日本カンボジア研究会(2010年7月3日)発表要旨(1)
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矢倉 研二郎(阪南大学経済学部)
「農村の若者による出稼ぎが結婚相手や居住地選択と土地相続に及ぼす影響」
本研究の目的は、カンボジアにおける農村からの若年出稼ぎ労働者による家族形成の決定要因を明らかにするとともに、若年出稼ぎ労働者による家族形成と農村の社会経済構造や土地相続制度との間の相互規定関係を把握することである。
この目的を達成するため、2008年12月から2009年1月にかけて,首都プノンペンにおいて農村出身の若年出稼ぎ労働者(計400名)に対する聴き取り調査を行った。また、2009年8月にプレイベン州、ポーサット州の計3村において世帯調査(計574世帯)を行った。それらを通じて得たデータとその分析により、以下の結果を得た。
第1に、家族への愛着や親を助ける責任感ゆえに、出稼ぎした若者の多くは故郷に帰るつもりでおり、そしてそれゆえに同郷の相手と結婚を希望している。事実、出稼ぎした若者の多くは故郷に帰り、同郷の相手と結婚している。また、「相手の家族も近くにいる」ということが同郷の異性との結婚を望む理由となっており、カンボジア農村における家族の紐帯の重要性を示している。
第2に、しかしながら、出稼ぎは、出会いの機会の提供を通じて他州出身者同士の結婚を増やしており、その結果として、そのまま出稼ぎ先や結婚相手の故郷に住むという形で、若者の離村を促している。出稼ぎ後に他州出身者と結婚し、離村する確率がとくに高いのは、土地なし・零細農家の子どもである。いわば、貧困家庭の子どもが他所へ新天地を求めているわけであるが、これには家族の紐帯を弱めるという結果を伴う可能性がある。
第3に、こうして離村した子どもは、親から農地を相続しない確率が高い。しかし親のほとんどが「子ども全員に土地を分け与える予定」と回答しており、事実、結婚後も村に住む子どもにはほとんどの場合土地が分与されている。したがって、出稼ぎを契機とした子どもの通婚圏の拡大や離村にも関わらず、農地の均分相続制度はまだ基本的には維持されており、カンボジアでの農地の細分化は今後も続くと予想される。