2010年6月11日

7/3 日本カンボジア研究会、発表要旨(3)平山雄大

第四回 日本カンボジア研究会(2010年7月3日)発表要旨(3)
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平山雄大(早稲田大学大学院教育学研究科)
「1990年代のカンボジアにおける教育開発 ―「初等教育の完全普及」達成に向けた取り組み―」

 初等教育の完全普及」(Universal Primary Education: UPE)という1960年代から開発途上国政府や国際機関によって提唱されてきた目標は、依然として教育開発の重要な位置を占めている。特に、1990年4月にタイのジョムティエンで開催された万人のための教育世界会議(World Conference on Education for All)以降、UPE達成は世界的な開発目標となっている。
 カンボジア政府もUPE達成に向けて真摯に取り組んでいるが、2010年現在においてもその実現を見せていない。2015年までのUPE達成という国際的な目標に向けて、カンボジアでは今後どのような教育開発が行われていくべきであるかを考えるうえでも、万人のための教育世界会議から今日にいたるまでの20年間の初等教育開発を整理・分析することは有意義であると考えられる。本発表ではその前半部分である1990年代を振り返り、教育会議や教育政策で掲げられた目標に焦点をあててたどることによって、カンボジア政府がUPE達成をどう捉え、どう教育政策に反映し、どのような成果を成し遂げてきたのかを整理・分析する。依拠する資料としては、カンボジア政府が1990年代に策定した各種教育政策及び教育統計、国際機関による報告書等が挙げられる。
 1990年代はカンボジアの社会状況が大きく変わり、あらゆる分野で国際協力プロジェクトが推進されていく。教育分野においても、政策決定から実施にいたるまで国際協力機関の影響を強く受けながらその開発が行われてきた。カンボジアの教育開発に援助はなくてはならない存在となり、教育の量の拡大、質の向上、運営の改善等あらゆる部分に対して援助が施された。しかしながら、協調性の乏しいプロジェクト型の援助方法には問題点も散見された。UPE達成に向けての目標は、主に1991年に開催された万人のための国家教育会議(National Conference on Education for All)で掲げられた6つの到達目標、及び1994年に策定された『教育セクター投資枠組み1995-2000』(Education Sector Investment Framework 1995-2000)内で掲げられた5つの到達目標の中に見ることができるが、それらは2000年の時点ではほとんど達成されておらず、10年間の初等教育開発の成果は芳しいものではなかったと結論づけられる。