2011年5月20日

6/26 第5回日本カンボジア研究会、発表要旨(6)

個人発表(6)
「『民主カンプチア』時代を巡る歴史教育―国定歴史教科書の検討を通して―」
新谷 春乃(東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻修士課程)

本報告は、1979年以降発行された学習指導要領から歴史教育の変遷を考察した後、国定歴史教科書において「民主カンプチア」時代が時期ごとにどのような言説で展開されてきたかを、当時の国内的・国際関係的背景を踏まえ、考察する。
カンボジア史教育は、パリ和平以前、近代以降の内容が中心となり、カンプチア人民共和国成立の正統性と、反「民主カンプチア」を主張する構成を採用した。パリ和平後、古代史、アンコール史がカンボジア史教育の中心となり、歴史教育の目的に愛国心育成の役割が与えられた。このような歴史教育の規定の下、パリ和平前後で、国定歴史教科書の記述において「民主カンプチア」時代の捉え方が変化し、「民主カンプチア」に一定の復権を与えた。こうした変化に対し、人民党は自らの正統性を確保するため、「民主カンプチア」への抵抗意識を教科書の記述に込めた。時代の捉え方の変化としては、表題の付け方、対越・対中認識、責任の所在、指導者への呼称を中心に論じ、人民党の抵抗では、被害の共同体の形成、抵抗運動の描写、掲載写真・死者数・用語選定によるイメージ形成という観点から論じる。

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