2026年7月7日

パネル発表要旨

 「2025年カンボジア・タイ国境紛争——紛争の構造と社会・各セクターへの影響」
“Anatomy of the 2025 Cambodia-Thailand Border Conflict: Structure, Dynamics, and Impacts on Cambodian Society”

(発表要旨)
 2025年5月以降、カンボジアとタイの国境地域において軍事衝突が生じ、同年12月には停戦合意に至ったものの、依然として不安定な状況が続いている。本パネルでは、2025年のカンボジア・タイ国境紛争について、歴史的な軋轢の顕在化や国境地域における局地的な衝突としてのみ捉えるのではなく、その背景にある政治的な構造、具体的な被害、人びとの生活への影響、さらにはカンボジア社会全体への波及について、登壇者の専門的視点から多角的に検証する。本パネルは2部構成として、第1部では、紛争の構造と文化遺産および社会への直接的影響を検討する。第2部では、国民生活および各セクターへの広範な影響を浮き彫りにする。
 まず、第1部の山田報告において、国境紛争が大規模な軍事衝突へと発展した構造的要因と、その政治的影響として愛国心動員による一族支配の強化へと連動していくメカニズムを分析する。続く田畑報告では、シェムリアップで開催された「プレア・ヴィヘア州遺跡保全に関する国際調整会議」での報告に基づき、プレア・ヴィヘア寺院の直接的な被害の実態を整理する。なお、田畑報告はデータの制約につき対面発表のみとし、スライドの写真撮影は固く禁ずる。吉田篤史報告では、国境から離れた都市部の人びとが、さまざまな活動を通して国境紛争に巻き込まれていく事例および報道のあり方から、カンボジア社会への波及の実態に迫る。
 第2部ではまず、ソウ報告においてカンボジアからタイへの移動労働者に焦点を当て、カンボジア・タイの労働移動の制度を整理し、帰国労働者をめぐる構造および政府の対応、帰国労働者の実態と問題について議論する。次の吉田尚史報告では、公衆衛生と精神保健の視点から、国境紛争が人びとの健康に与える影響と、それに対する支援やケアの状況を整理する。千田報告では、学校の閉鎖や破壊の実態、就学状況等に関する教育・青年・スポーツ省の報告と反応を検討するとともに、教師の語りから国境紛争が当該地域の学校教育に与えた影響の意味を考察する。最後に、秋保氏による総括と全体討論を行う。