2019年4月26日

5/25 東南アジア学会関西地区5月例会

今回は、カンボジアおよびマレーシアを中心とした近年の政治と社会の関わりを取り上げたパネル形式の例会となります。

オープンな会ですのでぜひご自由にご参加ください。事前登録などの手続きは必要ありません。

日時:5月25日(土)13:00-17:30

場所: 京都大学稲盛財団記念館 3階 中会議室
https://kyoto.cseas.kyoto-u.ac.jp/access/

開場 12:30

第一報告(13:00-14:00)

発表者:山田裕史(新潟国際情報大学)

発表題目:カンボジアにおける権威主義体制の強化と2018年総選挙
要旨:2013年総選挙と2017年地方選挙で最大野党・救国党が躍進したカンボジアでは、2017年後半に救国党党首の逮捕と同党の解党、主要メディアの廃刊や閉鎖など、権威主義体制の強化と位置づけられる出来事が相次いだ。そして2018年総選挙では、フン・セン首相率いる与党・カンボジア人民党が76.9%の票を得て全議席を独占するに至った。
 選挙に勝利して体制を維持するためとはいえ、欧米諸国による経済制裁が容易に予想されるなか、なぜ人民党政権は救国党を選挙過程から排除するまでに強権化したのか。その要因のひとつとして、多額の援助・投資・貿易によって人民党政権を支える中国の存在が指摘されているが、本報告では、2013年総選挙後から2017年地方選挙までの国内政治の動向に着目して上記の問いについて検討する。具体的には、野党勢力の取り込みと分断が今回は機能しなかったこと、および、人民党の常勝を支えてきた選挙操作が選挙改革によって困難となったことを指摘したい。また、2018年総選挙後の人民党と国軍の人事の分析から、フン・セン首相の長男への世襲と目される動きについても若干の考察を行う。

第二報告(14:00-15:00)

発表者:伊賀司(京都大学)・鷲田任邦(東洋大学)

発表題目:マレーシアの2018年政権交代と選挙監視運動

発表要旨:マレーシアでは2018年5月に実施された総選挙によって独立以来、史上初の政権交代が起こった。事前の選挙予測では、ほとんどの世論調査機関やメディアが与党連合の国民戦線(BN)の総選挙での勝利を予測していた。また、研究者の間でも2018年総選挙でのBNが勝利する確率は高いとみられていた。世論調査機関、メディア、研究者たちのBN勝利の判断の基準となっていたのは、BNによる長年の利益供与の構造とそれによって形成されてきた固い支持基盤、いわゆるゲリマンダリングといわれる選挙区割りの操作やそれによって生み出される一票の格差の問題、BNの意向に沿って活動する非中立的な選挙管理委員会や結社登録局などこれまで続いてきた野党に不公平な選挙の実態であった。
 では、なぜ野党連合の希望連盟(PH)は大多数の事前予想を覆し、BNに勝利することができたのか。様々な議論が可能だが、本報告では2008年以降本格化していった選挙監視運動の実態とそれを率いてきた活動家、さらに選挙監視運動を受け入れていった政治・社会的な背景に注目して、マレーシア史上初の政権交代の要因の一端を解き明かしていきたい。報告では、あらゆる不正手段で延命を図るBNに対して、活動家を中心とする選挙監視運動がどのように生起・対抗し、そしてなぜ多くの市民を巻き込むうねりにつなげていくことができたのかを、質的・量的双方のデータを用いて検討することから、選挙監視運動が政権交代に与えた影響を考察する。さらに、マレーシアの事例を取り扱う本報告を通じて、政治学の理論面で2000年代に入って注目されてきた選挙権威主義体制および競争的権威主義体制といった体制の実態とその崩壊について理論的側面から理解を深めていくきっかけともしていきたい。

第三報告(15:10-16:10 )

発表者:岡田勇(名古屋大学)

発表題目:政府に対する抗議運動への参加ーボリビア、カンボジア、モンゴルのサーベイ比較ー

発表要旨:アジアよりもラテンアメリカの方が、抗議運動に参加する傾向が高いという説がある。本当だろうか。そもそも、国によって、人々が抗議運動に参加する傾向が異なりうるのだろうか。もし異なるとすればそれは何によるのだろうか。本報告では、人々の政府に対する認識が国によって異なり、それによって抗議運動に参加する傾向が異なるとの仮説を立て、それを複数国での独自サーベイによって検証することを試みる。2018年にボリビア、カンボジア、モンゴルで実施されたサーベイでは、歴史文化的背景、政党政治、現政権の継続期間、人々の政治参加のパターンなどが大きく異なる国でいかに比較検証が可能になるかを考える必要があったため、ヴィニエットを用い、質問票の一部をランダム操作するなどの工夫を行った。本報告では、3カ国での調査結果を報告するとともに、実際にサーベイを実施する上での苦労などについても話題提供する。

総合討論 16:10-17:30

以上

ご不明な点がありましたら、
小林(kobasa[atmark]cseas.kyoto-u.ac.jp)までご連絡ください。

東南アジア学会関西例会担当理事・委員
小林知、伊賀司、ピヤダー・ションラオーン、吉川和希、西島薫

2019年4月13日

5/11 東南アジア考古学会第264回例会

東南アジア考古学会では第264回例会として、東南アジア古代史科研との共催でワークショップ「東南アジア古代寺院建築の配置構成と図像に込められた世界観」を開催いたします。プログラムと発表要旨は下記の通りです。お手数ですが、参加ご希望の方は末尾の連絡先まで参加をお申し込みください。

日時:5月11日(土)12時50分-17時50分

場所:早稲田大学戸山キャンパス33号館6階第11会議室

プログラム:
12時30分 開場

12時50分 開会

13時00分~13時50分 発表1 青山 亨(東京外国語大学)

13時50分~14時40分 発表2 寺井 淳一(東京外国語大学)

14時40分~15時30分 発表3 久保 真紀子(立正大学)

15時30分~15時45分 コメント1 淺湫 毅(京都国立博物館)

15時45分~16時00分 休憩

16時00分~16時40分 発表4 小野 邦彦(サイバー大学)

16時40分~17時30分 発表5 下田 一太(筑波大学)

17時30分~17時45分 コメント2 重枝 豊(日本大学)

17時50分 閉会

※閉会後、会場付近で懇親会を予定しています。

発表要旨:
【発表1】
発表者:青山 亨

発表題目:プランバナン寺院のラーマーヤナ浮彫が描く「死」のエピソード:テクストとしての浮彫と書承テクストとの比較の視点から

発表要旨:
 この報告では、9世紀中頃に中部ジャワに建立されたプランバナン寺院に描かれたラーマーヤナ浮彫を対象に、テクストとしての浮彫と書承テクストを比較することから見えてくる当時のジャワ社会の文化状況を明らかにしようとする。当時のジャワ社会ではヴァールミーキ版、バッティ版、古ジャワ語版、さらに口承のテクストがラーマーヤナに関わる知として共有されていた。ダンダカの森を場面とする「死」に関わるエピソードは、ヴァールミーキ版には7件、浮彫には5件が描かれている。これらの「死」は、ラーマによってもたらされる懲罰的な「死」(A)および恩寵的な「死」(B)、修行者による解脱に至る「死」(C)、ラーマ以外の人物によってもたらされる「死」(D)の4類型がある。書承テクストでは4類型がすべて描かれるが、浮彫ではC類型のエピソードは省略されるかB類型に置き換えられている。このような書き換えは、バラモン教学に基づく修行による解脱に比べて、ヴィシュヌ神の転生であるラーマによる恩寵的な「死」が、ジャワのアニミズム的憑依と離脱の発想とも親和性があり、王権を強化しつつあった当時のジャワ社会と適合的であるとする浮彫の作者の判断によるものと推測される。

【発表2】
発表者:寺井 淳一

発表題目:ミャンマー・バガン遺跡で見られる四仏・五仏の諸相とそれらを巡る祠堂空間の検討

発表要旨:
 中央公論美術出版より今年2月に刊行された肥塚隆責任編集『アジア仏教美術論集 東南アジア』所収の拙論「バガン遺跡における本尊初探−11世紀〜14世紀の四仏・五仏を中心に」では、祠堂の中心に祀られた本尊の類型を示し、その中でも重要な位置を占めていた四仏・五仏を取り上げ、その図像的特徴や祠堂に属する刻文の検討から、それらが過去四仏と未来仏を表す可能性が高いことを指摘した。また、このような四仏・五仏を祀る習慣が形成された背景には、ミャンマー地域でバガン朝成立以前に仏教を受け入れた諸民族との文化的交渉や、インドやスリランカなどの周辺地域との人・モノの交流があったことにも触れた。ただ、壁画などの本尊を取り巻く周辺の状況を含めた検討が不十分であった憾みがあった。本報告では、拙論で紹介しきれなかったバガン遺跡における四仏・五仏の諸相を示し、祠堂内の壁面に描かれた画題も含めて、全体としてどのような空間を作り出そうとしているのかを明らかにし、拙論の捕捉を行う。

【発表3】
発表者:久保 真紀子

発表題目:アンコールの仏教寺院プレア・カンにみられるヒンドゥー教図像と統治理念

発表要旨:
 アンコール朝の最大版図を築いたジャヤヴァルマン7世は大乗仏教を篤信し、その治世に大規模な仏教寺院を次々と建立した。その一つであるプレア・カンでは、観音菩薩を本尊としながらも、伽藍西側と伽藍北側には、ヴィシュヌやシヴァ、あるいはラーマやクリシュナといったヒンドゥー教図像が浮彫され、伽藍全体として仏教とヒンドゥー教の諸尊が併祀されていた様子がうかがえる。
本発表ではこうした尊像配置に着目し、この寺院伽藍にヒンドゥー教尊像を祀った意図や背景を考察する。具体的には、遺跡で発見された碑文をもとに、アンコール朝の王たちが巡礼した地方寺院における信仰、ならびにジャヤヴァルマン7世統治期のアンコール朝と周辺諸勢力との関係がプレア・カンの尊像配置に与えた影響を検討する。結論として、本尊の観音菩薩を中心にその周囲を諸尊が取り囲むプレア・カンの尊像配置は、当時のアンコール朝と周辺諸地域との関係性を象徴した縮図であった可能性を示す。さらに、王の雄姿を神々や英雄たちに仮託して寺院伽藍の各所に浮彫することで、ジャヤヴァルマン7世が自らの偉業を顕示し、その支配を正統化する意図があったことを指摘する。

【発表4】
発表者:小野邦彦

発表題目:祠堂の平面に図像化された神観念の始原と展開―古代ジャワのヒンドゥー寺院のコスモロジー―                                     

発表要旨:
 7世紀末頃から16世紀前半頃までにかけて、ジャワ島の中東部を中心に「ヒンドゥー・ジャワ芸術」が興隆し、とくに高度な文化を発展させたその時代は「古代」と呼び慣らわされている。そして、インド文化を源泉とする美術遺品の中で、ヒンドゥー教および仏教の神仏を祀る宗教建造物は、一般にチャンディ(candi)と総称されている。
 チャンディの大半を占める寺院建築のうち、本発表ではヒンドゥー寺院を取り上げ、祠堂建築の堂内や壁龕に安置された尊像配置に認められる規則性について、通説化された解釈を紹介する。そして、尊像の選択と配置に反映された思想、すなわち祠堂の平面に図像化された神観念について、「ヴァーストゥ・シャーストラ」などと呼ばれるインドの建築論書の記述を参照しながら、十分な根拠を伴うものとはいえないが、その始原についての仮説を提示する。
 さらに、ヒンドゥー教文化が残されているバリ島の「アスタ・コサラ・コサリ」などと呼ばれる建築論書の記述も参照しながら、当該の神観念の一部がバリ島にも継承されていると考えられることついて付言する。

【発表5】
発表者:下田 一太

発表題目:サンボー・プレイ・クックにおける寺院の伽藍配置と祠堂形式にみる信仰の形態

発表要旨:
 7世紀初頭,サンボー・プレイ・クック遺跡群に建立された宗教施設群は,複合的な伽藍を形成したクメール建築における最初期の事例である。中でもプラサート・サンボーやプラサート・イエイ・ポアンは主祠堂を中心に複数の方形の囲繞壁を巡らし,多数の祠堂を境内に配しており,後世のクメール寺院の祖型でありながら,その伽藍構成の特徴を良く示している。多くの祠堂には石製の台座が残され,それぞれに神像が祀られていたことは明らかで,伽藍全体で特定のマンダラ的な信仰の在り様が立体的に表現されていたものと推察される。  
本報告では,未だ断片的ではあるものの,各祠堂における尊像や伽藍における信仰のあり方について,伽藍の配置構成,出土した彫像,祠堂に施された装飾や図像,碑文の記述等をもとに考察したい。

参加申し込み:
参加ご希望の方は、5月4日(土)までに以下3点を下記の連絡先までお送りください。
➀お名前
➁ご所属
➂参加希望(ワークショップのみ参加/ワークショップ・懇親会の両方に参加)

申込先:久保 真紀子(makiboku05[atmark]yahoo.co.jp)

2019年4月4日

4/12 Shifting Agendas for the Mekong: New Contexts, New Actors

1980年代からメコン地域の「開発と環境」を研究しているシドニー大学のフィリップ・ハーシュ名誉教授をお招きした、以下の研究会が 東京の法政大学で開催されます。ご関心のある方は「申込方法」のURLから参加申込をお願い致します。
(講演は英語で通訳は付きません。ご注意ください)

1.テーマ(Theme)
メコンをめぐる移りゆくアジェンダ:新たな文脈と新たなアクター
Shifting agendas for the Mekong: new contexts, new actors

2.日時(Date and Time)
2019年4月12日(金)16時半~18時半
April 12, 2019 (Fri) 16:30-18:30

3.場所(Venue)
法政大学市ヶ谷キャンパスボアソナードタワー25階B会議室
Meeting Room B, 25th Floor, Boissonade Tower, Hosei University
[access] http://www.hosei.ac.jp/english/about/map/access/ichigaya/
[campus] http://www.hosei.ac.jp/english/about/map/campus/ichigaya/

4.使用言語(language)
 英語(English)※通訳なし

5.概要(Brief description)

メコン河流域の水力発電開発計画は長年にわたって続き、本支流のダム開発への
反対運動もまた長い歴史を持っている。多くの調査が繰り返し社会環境面でのコ
ストを明らかにしているが、ダム建設の進行は衰えることなく、今ではメコン河
下流国の本流にまで建設されている。この研究会では、過去20年間の開発に目を
向け、メコン河のダム開発をめぐるアドボカシーが生じる文脈の変化や、新たな
アクター/利害関係者を検討し、1990年代の「ダム・アドボカシー」の初期段階
から今日までのアジェンダの根本的な変化を示す。

Plans for hydropower development in the Mekong River Basin are
longstanding, and opposition to dams on the Mekong and its tributaries
now also has a long history.  Numerous studies reveal the repeated
social and environmental costs of these projects, yet the pace of dam
construction continues unabated and now includes projects on the
mainstream of the Lower Mekong.  In light of the development of the past
two decades, this talk considers the changing contexts in which advocacy
on Mekong dams is occurring and new actor/stakeholder configurations,
suggesting fundamental shifts in agendas since the early phases of
dam-oriented advocacy during the 1990s.

6.講演者(Guest Speaker) フィリップ・ハーシュ博士。

シドニー大学名誉教授。1987年から2007年まで同大 学で人文地理学の教鞭をと
る。現在はチェンマイ在中でチェンマイ大学に所属。メコン地域の環境、開発、
土地(所有)に関する多くの著作がある。近年の共編著としては、Powers of
Exclusion: Land dilemmas in Southeast Asia (Singapore University Press,
2011)、The Mekong: A socio-legal approach to river basin development
(Routledge/Earthscan, 2016)、Handbook of the environment in Southeast
Asia (Routledge, 2017)などがある。

Dr. Philip Hirsch is Emeritus Professor of Human Geography at the
University of Sydney, where he taught from 1987-2007.  He is based in
Chiang Mai and affiliated with Chiang Mai University.  He has written
extensively on environment, development and agrarian change in the
Mekong Region.  Among his recent publications are, (with Derek Hall and
Tania Li) Powers of Exclusion: Land dilemmas in Southeast Asia,
Singapore University Press 2011; (with Ben Boer, Fleur Johns, Ben Saul
and Natalia Scurrah) The Mekong: A socio-legal approach to river basin
development, Routledge/Earthscan, 2016; and (ed) Handbook of the
environment in Southeast Asia, Routledge 2017.[

7.申込方法(Application)
https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSeTALVQHv7tfXwxt1x-FZ1vJNckMGY6Pk6NNl2oIUQONqJlzA/viewform?vc=0&c=0&w=1&usp=mail_form_link

8.問い合わせ先(Contact)
 法政大学国際文化学部 松本 悟
 Satoru Matsumoto, Hosei University smatsumoto[atmark]hosei.ac.jp

9.協力団体(Collaboration)
特定非営利活動法人メコン・ウォッチ Mekong Watch