2021年11月14日

11月27日、28日 第15回日本カンボジア研究会 プログラム

第15回 日本カンボジア研究会 プログラム

期日:2021年11月27日(土)、28日(日) オンライン(Zoom)開

<2021年11月27日>

13:00-13:10 趣旨説明


13:10-14:10 発表(1) 矢倉研二郎(YAGURA Kenjiro)阪南大学

「カンボジアにおける若年層の急速な脱農化の要因―2つの稲作農村出身の既婚農村子弟に関する事例研究」

“Factors promoting the rapid de-agrarianization of Cambodian rural youth: A Case study of married children from two rice villages”

発表要旨は、こちら


14:10-15:10 発表(2) 田畑幸嗣(TABATA Yukitsugu)早稲田大学

「扶南・真臘・アンコールをどのように捉えるか」

“Funan, Chenla, and Angkor: Reviewed from recent perspectives”

発表要旨は、こちら


15:10-15:20 休憩


15:20-16:40 笹川秀夫さん追悼セッション

今年4月に、『アンコールの近代:植民地カンボジアにおける文化と政治』(中央公論社、2006年)などで知られるカンボジア研究者の笹川秀夫さんが急逝されました。本セッションは、生前に笹川さんから受けた助言や、その研究から受けたインパクトを複数の立場から振り返り、その業績をしのび、継承する場とします。

登壇者(順):

羽谷沙織(HAGAI Saori)立命館大学

日向伸介(Hinata Shinsuke)大阪大学

石橋弘之(ISHIBASHI Hiroyuki)早稲田大学

新谷春乃(SHINTANI Haruno)日本貿易振興機構アジア経済研究所

小林知(KOBAYASHI Satoru)京都大学

北川香子(KITAGAWA Takako)学習院女子大学


16:40-17:00 参加者の意見交換・交流


<2021年11月28日(日)>


13:00-14:00 発表(1)中野惟文(NAKANO Korefumi)東北大学大学院文学研究科博士課程

「呪術実践を頼るということ―現代カンボジア社会における事例から」

“Relying on magic practices : The case in modern Cambodian society”

発表要旨は、こちら


14:00-15:00 発表(2)新谷春乃(SHINTANI Haruno)日本貿易振興機構アジア経済研究所

「1993年以後のカンボジアにおけるメディアの政治・社会的状況」

“Political and Social context of Media in Cambodia since 1993”

発表要旨は、こちら


15:00-15:10 休憩


15:10-16:00 現地報告 坂野一生(SAKANO Issei) カンボジア司法省

「カンボジアにおけるCOVID-19の状況」

11月27日 発表(1)要旨

 矢倉研二郎(YAGURA Kenjiro)阪南大学

「カンボジアにおける若年層の急速な脱農化の要因―2つの稲作農村出身の既婚農村子弟に関する事例研究」

“Factors promoting the rapid de-agrarianization of Cambodian rural youth: A Case study of married children from two rice villages”

 カンボジアでは近年,若年層を中心に農業就業者の減少が急速に進んだ.本研究ではポーサット州とプレイヴェーン州の2つの稲作農村で2009年と2020年に収集された世帯主の既婚の子どものデータを分析することで,この2時点間における若年層の脱農メカニズムの解明を試みた.その結果,農地相続面積の減少や学歴の上昇の効果は大きくはなく,出稼ぎ先で知り合った相手との結婚の増加が農業従事者比率低下の約4分の1を説明する大きな要因であることが明らかになった.これは,独身者による出稼ぎという形態での非農業部門への就業の増加そのものではなく,それによる通婚圏の拡大が結婚後の非農業就業を促進して脱農を加速化させたことを意味する.

 さらに,2020年のデータにおいては,親の農地所有面積が小さいほど出稼ぎ先で知り合った相手と結婚する確率が高い傾向がみられた.これは,結婚後に親から相続できる農地が少なく農業で生計を立てることが困難と予期した若者が,結婚後に非農業に従事することも念頭において出稼ぎ先で出会った相手との結婚を意識的に選択した可能性を示唆する.

11月27日 発表(2)要旨

 田畑幸嗣(TABATA Yukitsugu)早稲田大学

「扶南・真臘・アンコールをどのように捉えるか」

“Funan, Chenla, and Angkor: Reviewed from recent perspectives”

 前アンコール時代、アンコール時代、 後アンコール時代という区分は、元々は美術史で様式を分類するための研究上の単なる工夫であったが、カンボジア史の区分として定着し、現在でも用いられている。前アンコール時代とは扶南・真臘という古代国家を指し、9世紀から15世紀が栄光のアンコール朝、その後の凋落と衰退の後アンコール時代から植民地時代へ至るのが、一般的なカンボジア史理解であろうし、そのことは博物館の展示方法などにもよく現れている。

 近年は、凋落と衰退の後アンコールという時代理解に批判的な研究が主流となりつつあるが、扶南→真臘→アンコールという、フィノを経てセデスによってほぼ完成された古代カンボジの歴史観・国家観については、以前から見直しが迫られているにもかかわらず、他分野の研究者には十分注意を払われているとは言い難い。そこで今回は、扶南・真臘・アンコールとはどのような国家なのか、またそれらの連続性をどのようにして捉えるのかについて、これまでの様々な調査研究成果をもとに報告したい。

11月28日 発表(1)要旨

  中野惟文(NAKANO Korefumi)東北大学大学院文学研究科博士課程

「呪術実践を頼るということ―現代カンボジア社会における事例から」

“Relying on magic practices : The case in modern Cambodian society”

 本発表の目的は現代カンボジア社会における呪術実践に焦点を当てて、クライエントが呪術実践を選択して頼る要因を明らかにすることだ。現代カンボジア社会には呪術実践を行うクルー・クマエが数多くいる。彼らは骨接ぎ、マッサージ、薬草処方などそれぞれの分野に特化・専門化している。クルー・クマエの呪術実践は、クルー・クマエとクライエントだけでなく見物人もいる空間で行われていた。

 発表者は2018年から2020年1月まで断続的に行った現地調査で、クルー・クマエによる呪術実践の観察とクライエントへのインタビュー調査を行った。これらの調査結果からクライエントが呪術実践を頼る要因が次の2点であることを明らかにした。①怪我や病気を抱えるクライエントの多くは、病院・薬局などで治らなかった際の最後の選択肢として呪術実践を頼っていた。②それまでのクライエントの経験・知識に結びつくように呪術師と見物人の双方が呪術実践を解説して呪術にリアリティを与え、クライエントが呪術実践を「理解して」頼るようになった。本発表では呪術実践の具体的事例とその分析から①②について述べる。

11月28日 発表(2)要旨

 新谷春乃(SHINTANI Haruno)日本貿易振興機構アジア経済研究所

「1993年以後のカンボジアにおけるメディアの政治・社会的状況」

“Political and Social context of Media in Cambodia since 1993”

   本研究は、カンボジアが複数政党制・立憲君主制へ移行した1993年以降のカンボジアのメディアを取り巻く政治的・社会的状況の変遷を明らかにすることを目的としている。研究方法としては、主に日本国内やインターネット上で収集可能な資料(官報、現地紙、報告書等)を収集し、言論環境をめぐる法制度の変遷、マスメディア状況、取り締まり・攻撃事例の検討を通して、1993年から2020年にかけての言論環境の変遷を3つの時期区分に分けて概観する。第1期は黎明期にあたり、メディアを保護・規制する法制度が整備され、様々な政治的志向を持つメディアの活動が活発化した一方、ジャーナリストや新聞社に対する暴力的・法的攻撃が急増した。第2期は、引き続き様々な政治的志向を持つマスメディアの活動が活発に行われるなか、ジャーナリストに対する攻撃として暴力的なものが減少し、法的手段中心へと移行した。第3期は、インターネットの利用が拡大する中、自由な言論空間として注目されたソーシャルメディア等を規制する法制度や取り締まりが強化され、政府批判も厭わない新聞社やラジオ局が閉鎖に追い込まれ、一般人の言論活動も監視対象となった。