2026年7月7日

第20回 日本カンボジア研究会 プログラム

 20回日本カンボジア研究会のプログラムをお知らせ致します。

今年度も対面とオンラインのハイブリッド形式で実施いたします。

カンボジアに関わる話題を広く取り上げて議論する機会として、皆さまのご参加をお待ちしております。

オンライン参加については、事前に参加登録をお願いすることになります。追って、参加登録のご連絡させていただきますので,よろしくお願いいたします。

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期日:2026年8月29日(土)30日(日)

開催形態:対面をメインとするハイブリッド(発表は原則対面のみ)

開催場所:早稲田大学(戸山キャンパス33号館16階第10会議室)

https://www.waseda.jp/top/access/toyama-campus

829 日(土)

12:00開場ポスター掲示開始

12:3012:40 趣旨説明

 

12:4013:30 発表

 矢倉研二郎(YAGURA, Kenjiro)阪南大学

21世紀のカンボジアの経済成長外国の資源・機会の活用とその限界

“Cambodia’s economic growth in the 21st century: utilizing foreign resources and opportunities and their limitations”

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13:4014:30 発表

ケン ポリン(KHEN, Phallin)横浜国立大学・大学院生

「カンボジアの加盟事例を通じて見るCPTPPの概要」

“An Introduction to the CPTPP through the Case of Cambodia’s Accession”

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14:4015:30 発表

レット サラヴィヴァット(RETH, Sarakvivat)名古屋大学・大学院生

ROSCAsとしてのトンチン:カンボジアにおける現代的展開と法的課題」

“Tontin as ROSCAs: Contemporary Developments and Legal Challenges in Cambodia”

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15:4016:30 発表

ディー パーヌット(DY, Phanith)横浜国立大学・大学院生

「金銭消費貸借における損害賠償を巡る法的問題」

“Legal issues surrounding compensation for damages in loan contract”

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16:4017:30 発表

調邦行(SHIRABE, Kuniyuki)東京外国語大学

「チュオン・ナート僧王火葬式に関する『カンプチア・ソリヤ』特別号の構成と意義」

“The Structure and Significance of the Special Issue of the Kambujasuriya on the Cremation of Supreme Patriarch Chuon Nat”

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17:4018:10【ポスターセッション】コアタイム

P-01

劉澤文(LIU, Zewen)下関市立大学

「中国中心型アグリフード・システムにおける不均等発展

カンボジア・バナナ輸出産業のガバナンスと価値分配

“Uneven Development in China-Centered agri-food system: Governance and Value Distribution in Cambodia’s Banana Export Industry”

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P-02

伊藤恒輝・小沢志生・三輪純正(ITO, Koki; OZAWA, Shio; MIWA, Junsei)成城高等学校

「シェムリアップ州における農民の実態調査」

“Survey of the realities of farmers in Siem Reap Province”

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P-03

井戸千沙都(IDO, Chisato)仙台二華高校

「カンボジアにおける祠の分布と形態変化」

“Distribution and Morphological Changes of Shrines in Cambodia”

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懇親会(希望者のみ)

 

830日(日)

9:30 開場

 

10:0013:35 パネル

2025年カンボジア・タイ国境紛争——紛争の構造と社会・各セクターへの影響」

“Anatomy of the 2025 Cambodia-Thailand Border Conflict: Structure, Dynamics, and Impacts on Cambodian Society”

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10:0010:05 趣旨説明

千田沙也加(SENDA, Sayaka)中京大学

 

10:0510:20 発表 (1)

山田裕史(YAMADA, Hiroshi)新潟国際情報大学

「紛争の構造的要因と政治的波及——特殊詐欺問題をめぐる外圧と対外危機の内政利用」

“Structural Factors and Political Consequences of the Conflict: External Pressure over Online Scams and the Domestic Exploitation of Foreign Crises”

10:2010:35 発表 (2)

田畑幸嗣(TABATA, Yukitsugu)早稲田大学

「紛争と文化遺産——戦闘によるプレアヴィヒア遺跡への直接的・物理的被害」

“Cultural Heritage under Conflict: Physical Damage to Preah Vihear Temple”

 

10:3510:50 発表 (3)

吉田篤史(YOSHIDA, Atsushi)京都大学・大学院生

「国境紛争に巻き込まれるプノンペンの人々——日常生活の変化と紛争関連イベントへのかかわりを中心に」

“Phnom Penh Amid the Border Conflict: Changing Daily Lives and Public Engagement in Conflict-Related Events”

 

 10:5011:00 休憩 

 

11:0011:15 発表 (4) 

ソウ ヤーリー(SOU, Yaly)京都大学

「タイ・カンボジア国境紛争と移動労働者——カンボジア帰国労働者の実態と問題を中心に」

“The Thailand-Cambodia Border Conflict and Migrant Workers: The Situation and Challenges of Cambodian Returned Migrant Workers”

11:1511:30 発表 (5)

吉田尚史(YOSHIDA, Naofumi)早稲田大学/東京都福祉局

「紛争・健康・ケア——タイ・カンボジア国境紛争における公衆衛生と精神保健」

“Conflict, Health and Care: Public Health and Mental Health in the Thailand-Cambodia Border Conflict”

 

11:3011:45 発表 (6)

千田沙也加(SENDA, Sayaka)中京大学

「国境紛争で学校に通えなくなるということ——教育行政の反応と教師の語り」

“The Impact of Border Conflict on School Attendance: Education Authorities' Responses and Teachers' Narratives”

 

11:4512:45 昼休憩

 

12:4513:35 パネル総括・討論

秋保さやか(AKIHO, Sayaka)九州産業大学

 

 

13:4514:35 発表

川口智恵(KAWAGUCHI, Chigumi)東洋学園大学

UNTACを通じたリベラル平和構築の再検討カンボジア人ナショナル・スタッフの語りから

 “Reassessing Liberal Peacebuilding through UNTAC: Narratives of Cambodian National Staff”

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14:4515:35 発表

市河里菜(ICHIKAWA, Rina)上智大学・大学院生

「カンボジアにおける障害観と『新しい障害』人々の障害認識を形成してきた『近代化』

“Disability Perceptions and ‘New Disabilities’ in Cambodia: ‘Modernization’ Shaping People's Perceptions of Disability”

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15:4516:35 発表

郷家薫(GOKE, Kaoru)信州大学・学部生

「アンコール地方の農業とその課題」

“Agriculture and Its Challenges in the Angkor Region”

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16:4517:35 発表

岡田知子(OKADA, Tomoko)東京外国語大学

「カンボジアにおける武侠小説の読者文化貸本・写本を中心に

“Reader Culture of Wuxia Fiction in Cambodia: Focusing on Lending Libraries and Manuscript Culture”

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発表要旨(2)

 ケン ポリン(KHEN, Phallin)横浜国立大学・大学院生

「カンボジアの加盟事例を通じて見るCPTPPの概要」
“An Introduction to the CPTPP through the Case of Cambodia’s Accession”

(発表要旨)
 アジア太平洋地域では、地域的な包括的経済連携(RCEP)が2022年に発効し、カンボジアはその原加盟国として大きな恩恵を受けている。そして、カンボジアは2025年12月、より高水準の貿易協定である環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)への加盟を正式に申請した。
 なぜRCEPに既に加盟しているにもかかわらず、カンボジアは更にCPTPPを目指すのか。2029年に予定される後発開発途上国(LDC)からの卒業し、これにより、これまでカンボジアが享受してきた特恵待遇が段階的に縮小されることが確実視されている。CPTPP加盟は、市場アクセスの維持、貿易競争力の強化、そして国内の法制度・規制改革を促進するための戦略的選択肢として位置付けることができる。
 本発表の目的は三点である。第一に、CPTPPの制度的・法的枠組みを概観する。第二に、RCEPのみではカンボジアの長期的な貿易目標に対して不十分である理由を、具体的な協定内容の比較を通じて検討する。第三に、カンボジアがCPTPP加盟に向けて必要となる準備事項(国内法の整合性、制度整備、交渉戦略など)を明らかにする。これらを通じて、途上国であるカンボジアのCPTPP加盟が有する意義と課題を提示したい。


発表要旨(3)

 レット サラヴィヴァット(RETH, Sarakvivat)名古屋大学・大学院生

ROSCAsとしてのトンチン:カンボジアにおける現代的展開と法的課題」
“Tontin as ROSCAs: Contemporary Developments and Legal Challenges in Cambodia”

(発表要旨)
 本報告では、カンボジアのトンチンの社会的機能を取り扱う。トンチンはインフォーマルな金融手段である回転型貯蓄信用講(「ROSCAs」)の一種とされており、世界各地に類似の慣行が見られる。ROSCAsは、金融手段のみならず親睦手段としても用いられ、時にギャンブルの一種ともなっている。カンボジアのトンチンに関する数少ない先行研究としては、1961年に公刊したジャン・モリス(Jean Morice)の論文があるものの、現代のトンチンを対象とした体系的研究はほぼ存在しない。本報告では、モリス論文を踏まえてその基本構造を概観したうえで、報告者がカンボジアでのインタビュー調査に基づき、現代の運営実態を分析する。具体的には、「口数」に基づく仕組み、地縁・血縁・職縁に基づく信頼関係、近年広がるオンライン・トンチンの動向を取り上げる。加えて、トンチンを違法とした裁判例にも触れ、慣習と法制度の交錯について検討する。フォーマルな金融制度が発展するなかで、トンチンはやがて消えゆくものなのか、それとも独自の意義を保ち続けるのかを論じる。

発表要旨(4)

ディー パーヌット(DY, Phanith)横浜国立大学・大学院生

「金銭消費貸借における損害賠償を巡る法的問題」
“Legal issues surrounding compensation for damages in loan contract”

(発表要旨)
 本発表は、カンボジア司法省が公開している貸金返還請求事件に関する民事判決、日本の判例・学説・2017年債権法改正資料等を主たる資料として依拠するものである。調査方法としては、カンボジアにおける判決分析、日本法に関する文献・判例調査を行い、各国における損害賠償の判断基準と責任構造を比較検討する。本研究の目的は、金銭消費貸借契約における損害賠償の法的根拠と範囲を明らかにし、貸主・借主双方の責任の在り方を整理する点にある。具体的には、①返済遅滞による借主責任、②貸主による金銭不交付責任、③解除に伴う損害賠償責任、④期限前弁済による責任を中心に検討する。その結果、カンボジア法においては損害賠償の範囲や判断基準が十分に体系化されておらず、比較法的視点を踏まえた基準整理が必要であることを示し、日本法の理論がその整備に重要な示唆を与えることを結論として提示する。

発表要旨(6)

川口智恵(KAWAGUCHI, Chigumi)東洋学園大学

UNTACを通じたリベラル平和構築の再検討カンボジア人ナショナル・スタッフの語りから
“Reassessing Liberal Peacebuilding through UNTAC: Narratives of Cambodian National Staff”

(発表要旨)
 
本研究は、1990年代初頭にカンボジアで活動した国連平和維持活動(PKO)である国連カンボジア暫定統治機構(UNTAC)における雇用経験が、カンボジア人ナショナル・スタッフにどのような影響を与え、その経験が後年の語りや人生にどのように位置づけられているのかを検討する。2023年から2026年にかけて実施した半構造化インタビューの質的分析をもとに、民主主義、人権、中立性、法の支配といったリベラル平和構築に関わる価値観が、どのように受容され、再解釈されているのかを考察する。
 リベラル平和構築研究では、ローカル・エリートや草の根主体による抵抗や交渉に焦点が当てられることが多い。他方、本研究では、国際介入の現場に組み込まれたナショナル・スタッフの経験と語りに注目する。UNTAC経験を持つ人々の語りを通じて、リベラル平和構築の遺産やその複雑性について再検討を試みる。本発表は、UNTACナショナル・スタッフを単なる補助的存在ではなく、平和構築経験の主体的担い手として捉え直す視点を提示する。

発表要旨(5)

調邦行(SHIRABE, Kuniyuki)東京外国語大学

「チュオン・ナート僧王火葬式に関する『カンプチア・ソリヤ』特別号の構成と意義」
“The Structure and Significance of the Special Issue of the Kambujasuriya on the Cremation of Supreme Patriarch Chuon Nat”

(発表要旨)
 創刊以来の『カンプチア・ソリヤ』の各号記事はネット上で公開されている。1971年1月発行の同誌特別号は、僧王チュオン・ナートの火葬式の式次第、葬列図、要人の弔辞などを可視化して記録し、後世に伝えるための媒体として編集された。
 本発表は、同誌の記事内容を検討し、その構成と意義を明らかにするものである。僧王チュオン・ナートは国家仏教の象徴であり、式は単なる高僧の火葬ではなく、宗教 的・政治的国家行事として構成され挙行された。内戦状態の中で、実施日は当初予定より大幅に延期され、日程も縮小された。葬列図は王室葬儀に通じる最高の形式が整えられたことを示し、要人弔辞からは式が反共連帯を強化する国際的儀礼とされたことが読み取れる。また、『チュオン・ナート僧正の遺作』から抜粋して掲載された詩などの作品群の構成には彼の遺志を引き継ごうとする編集の意図が窺える。


発表要旨(7)

市河里菜(ICHIKAWA, Rina)上智大学・大学院生

「カンボジアにおける障害観と『新しい障害』人々の障害認識を形成してきた『近代化』
“Disability Perceptions and ‘New Disabilities’ in Cambodia: ‘Modernization’ Shaping People's Perceptions of Disability”

(発表要旨)
 本発表では、文献調査と2025年3-4月と7月に計1か月半プノンペンとシェムリアップで行ったフィールドワークのデータをもとに、カンボジアにおける人々の障害認識を形成してきたと歴史的要因を分析したうえで、Autismなど「新しい障害」に関する認識を明らかにする。仏教国であるカンボジアは、障害者差別の問題が仏教の「カルマ」の考え方と結びつけられてこれまでの研究で指摘されてきた。しかし、その前提となる障害を「悪いもの」とした考えは、フランス保護国時代における統治と管理のための近代医療と近代体育教育の導入と深く関係している。また、内戦終結以降、国際協力や国際社会の介入の中でカンボジア国内に定着した「能力主義的」教育制度は、カンボジア社会の中で新しい障害を生み出している。立場や世代によって認識の道筋が異なるとは言え、人々の語りからも「新しい障害」に対する認識と、その症状に理由を求める様子がみられた。

発表要旨(8)

郷家薫(GOKE, Kaoru)信州大学・学部生

「アンコール地方の農業とその課題」
“Agriculture and Its Challenges in the Angkor Region”

(発表要旨)
 本発表は、アンコール地方における農業の現状と課題について報告するものである。発表者は2026年3月、カンボジア・シェムリアップ州内の7集落において、農業に関する聞き取り調査および土壌調査を実施した。本発表では、これらの調査資料をもとに、同地域における農業実態と地域的課題を整理する。
 シェムリアップ州はアンコール遺跡群を擁する観光地域として知られ、農村部においても観光業と農業の双方に従事する住民がみられる。また、遺跡保護に関する土地利用規制など、地域特有の条件が農業に影響を与えている。さらに、耕運機や収穫機械を利用する農家と、手作業や家畜を用いる農家が混在している点にも特徴がみられる。加えて、同一地域内でも土壌条件や作付け状況に差異が確認された。本発表では、こうした状況を踏まえ、地域農業の課題を整理するとともに、土壌条件も踏まえた改善の方向性について検討する。

発表要旨(1)

 矢倉研二郎(YAGURA, Kenjiro)阪南大学

21世紀のカンボジアの経済成長外国の資源・機会の活用とその限界
“Cambodia’s economic growth in the 21st century: utilizing foreign resources and opportunities and their limitations”

 (発表要旨)
  本発表では,これまでの研究成果ならびに現在進行中の研究をふまえて,21世紀におけるカンボジアの経済成長のメカニズムとその背景,限界について論じる.研究が依拠するのは,カンボジア政府統計(人口センサス,社会経済調査,農業統計),国際機関の統計(FAOSTAT,UNCOMTRADE ILOSTAT),ならびに報告者がカンボジアで収集した農村家計データである.
 カンボジア経済は21世紀に高成長を続け,貧困率も大幅に低下したが,それを可能にしたのは外国の資源や機会(市場,資金,その他の経営資源)の活用である.外国の資源や機会を活用した発展は,製造業や農業,金融,労働分野,インフラ整備で顕著であり,かつそれらの間に好循環が存在した.カンボジアの歴史,国の規模,隣国の経済発展を含む国際的経済環境がその背景にある.
 しかし,こうした外国依存の経済成長は,人的資本投資の停滞と,カンボジアの後進国としての地位の固定化を招き,産業の高度化と多角化を阻害しており,このままでは2050年までの先進国入りという政策目標の達成は困難と考えられる.


ポスター発表要旨(1)

 「中国中心型アグリフード・システムにおける不均等発展

カンボジア・バナナ輸出産業のガバナンスと価値分配
“Uneven Development in China-Centered agri-food system: Governance and Value Distribution in Cambodia’s Banana Export Industry”

(発表要旨)
 
本研究は、グローバル生産ネットワークの視点から、中国中心型アグリフード・システムへの統合がカンボジアのバナナ輸出産業に与えた影響を考察するものである。近年、中国における生鮮果物需要の拡大を背景として、東南アジア大陸部は中国向け果物供給地域として急速に再編されつつある。Pritchardらは東南アジア四カ国と中国の生鮮果物貿易を分析し、中間業者主導の柔軟なガバナンス構造を指摘した。しかし、後発経済国であるカンボジアにおけるネットワーク形成と価値分配構造については十分に検討されていない。本研究では、中国系アグリビジネス企業およびプランテーション労働者へのインタビュー、参与観察などのフィールドワークを実施した。その結果、中国系企業がリード企業として越境的な生産・流通を主導し、Economic Land Concessionや一帯一路構想、業界団体などを通じて地域資産との戦略的結合を形成していることが明らかとなった。一方で、付加価値は中国側の流通・小売部門に集中しており、中国中心型アグリフード・システムへの統合は輸出拡大を促進する一方で、不均等発展を生じることが示された。

ポスター発表要旨(3)

 井戸千沙都(IDO, Chisato)仙台二華高校

「カンボジアにおける祠の分布と形態変化」
“Distribution and Morphological Changes of Shrines in Cambodia”

(発表要旨)
 現代カンボジアの景観を象徴する金色の祠「spirit house 」は、伝統的なアニミズム信仰に基づく土地の守護霊の依代である。市場に既製品の祠が流通し、画一化が進む一方で、地域によっては多様な受容形態が見られる。本研究では、シェムリアップ近郊の幹線道路沿い、農村、および水上集落を対象に、現地での聞き取り調査に加え、Google Earthを用いた衛星写真解析による広域的な分布調査を実施した。調査の結果、道路網が発達した地域では既製品による均一化が顕著である一方、農村部では貧困状況(IDプアカードの有無等)が設置の可否や形態に影響を与えている実態が確認された。また、水上集落では物理的制約に対し、柱を利用する等の環境適応的な形態維持が判明した。本解析を通じ、祠の標準化が地理的・経済的制約下で維持される独自の適応が明らかとなった。

ポスター発表要旨(2)

 伊藤恒輝・小沢志生・三輪純正(ITO, Koki; OZAWA, Shio; MIWA, Junsei)成城高等学校

「シェムリアップ州における農民の実態調査」
“Survey of the realities of farmers in Siem Reap Province”

(発表要旨)
 本研究では、カンボジアの農家へのインタビューを通じて、農家・労働者のミクロな視点から、現代カンボジアが抱える構造的問題を可視化する。具体的には、2025年8月に、トンレサップ湖北東部の農家、アンクロン市場周辺の農家、およびアンコールマーケット直営農場の農家、計12名に対して半構造化インタビューを実施し、生計戦略、農業技術の受容、社会意識に関するデータを収集した。分析の結果、若者の都市流出に伴う労働力不足、コメ単一栽培の脆弱性、世代間の学歴格差といった共通課題が浮き彫りとなった。これらの課題の背景には、知識層の喪失やインフラの解体といったポル・ポト政権期に由来する構造的影響が存在する一方で、それらの受容や対応のあり方には、地域や経営形態による差異も見られた。本研究の結果は、過去の政治的負債が現代の社会変容や農業開発のボトルネックとなっている実態を明らかにし、東南アジア地域研究に新たな知見を提示するものである。

パネル発表要旨

 「2025年カンボジア・タイ国境紛争——紛争の構造と社会・各セクターへの影響」
“Anatomy of the 2025 Cambodia-Thailand Border Conflict: Structure, Dynamics, and Impacts on Cambodian Society”

(発表要旨)
 2025年5月以降、カンボジアとタイの国境地域において軍事衝突が生じ、同年12月には停戦合意に至ったものの、依然として不安定な状況が続いている。本パネルでは、2025年のカンボジア・タイ国境紛争について、歴史的な軋轢の顕在化や国境地域における局地的な衝突としてのみ捉えるのではなく、その背景にある政治的な構造、具体的な被害、人びとの生活への影響、さらにはカンボジア社会全体への波及について、登壇者の専門的視点から多角的に検証する。本パネルは2部構成として、第1部では、紛争の構造と文化遺産および社会への直接的影響を検討する。第2部では、国民生活および各セクターへの広範な影響を浮き彫りにする。
 まず、第1部の山田報告において、国境紛争が大規模な軍事衝突へと発展した構造的要因と、その政治的影響として愛国心動員による一族支配の強化へと連動していくメカニズムを分析する。続く田畑報告では、シェムリアップで開催された「プレア・ヴィヘア州遺跡保全に関する国際調整会議」での報告に基づき、プレア・ヴィヘア寺院の直接的な被害の実態を整理する。なお、田畑報告はデータの制約につき対面発表のみとし、スライドの写真撮影は固く禁ずる。吉田篤史報告では、国境から離れた都市部の人びとが、さまざまな活動を通して国境紛争に巻き込まれていく事例および報道のあり方から、カンボジア社会への波及の実態に迫る。
 第2部ではまず、ソウ報告においてカンボジアからタイへの移動労働者に焦点を当て、カンボジア・タイの労働移動の制度を整理し、帰国労働者をめぐる構造および政府の対応、帰国労働者の実態と問題について議論する。次の吉田尚史報告では、公衆衛生と精神保健の視点から、国境紛争が人びとの健康に与える影響と、それに対する支援やケアの状況を整理する。千田報告では、学校の閉鎖や破壊の実態、就学状況等に関する教育・青年・スポーツ省の報告と反応を検討するとともに、教師の語りから国境紛争が当該地域の学校教育に与えた影響の意味を考察する。最後に、秋保氏による総括と全体討論を行う。

発表要旨(9)

 岡田知子(OKADA Tomoko)東京外国語大学

「カンボジアにおける武侠小説の読者文化 ― 貸本・写本を中心に ―」
“Reader Culture of Wuxia Fiction in Cambodia: Focusing on Lending Libraries and Manuscript Culture”

(発表要旨)
本発表では、1960年代から1990年代半ばにかけてのカンボジアにおける武侠小説の読者文化について検討する。対象とするのは、中国武侠小説のクメール語翻訳、およびその影響を受けてカンボジア人作家が創作したクメール語作品である。これらは1960年代には都市部で貸本として広く流通し、1980年代には言論統制や出版事情を背景に写本として再生産された。さらに1990年代には、タイ・カンボジア国境の難民キャンプ内でも読者による創作がみられた。発表者による地下写本小説関係者への聞き取り調査では、多くが1960年代の貸本武侠小説に言及しており、本発表では金庸作品など中国武侠小説の影響可能性を手がかりに、今後の研究課題を展望する。