2024年6月24日

ブックトーク: Theara Thun, Epistemology of the Past: Texts, History and Intellectuals of Cambodia, 1855–1970

<ブックトーク>Theara Thun, Epistemology of the Past: Texts, History and Intellectuals of Cambodia, 18551970

 

開催日時:2024626日(水)16:4518:00

開催場所:京都大学東南アジア地域研究研究所東棟 1階リサーチ・コモンズ

開催方法:ハイブリッド

※要参加登録:https://kyoto.cseas.kyoto-u.ac.jp/event/20240626/

 

使用言語: 英語
発表者: テラ・トゥン (香港大学研究員、京都大学東南アジア地域研究研究所連携助教)
司会者: 土屋 喜生(京都大学東南アジア地域研究研究所)


要旨:

 東南アジア研究において、在来の歴史記述法と西洋の歴史学手法との出会いについては長らく注目されることがありませんでした。テラ・トゥン氏はEpistemology of the Past: Texts, History, and Intellectuals of Cambodia, 18551970(過去の認識論─1855-1970年におけるカンボジアのテキスト・歴史・知識人)において、2つの特徴的な歴史表現様式の接触とそれが社会にもたらした影響を、初めて批判的かつ体系的に叙述しました。カンボジアの前植民地支配期、植民地支配期、独立後の歴史言説を検証することで、さまざまな視点を持つカンボジア人学者たちが、互いに異なる歴史像を提唱していたことを明らかにしています。
 本書は、東南アジア研究における最大の在来言語資料のコレクションを紹介しています。著者は前植民地支配期の歴史記述法が、西洋の歴史学手法と並行して存続し、独自の認識論をもつユニークな知識体系を作り上げたと論じています。本書は、植民地期および独立後の東南アジア、特に在来の認識論、知識生産の歴史、異文化交流と翻訳、さらに歴史の叙述に関わる研究にとって、きわめて重要な貢献となるでしょう。

書籍情報: Theara Thun, Epistemology of the Past: Texts, History, and Intellectuals of Cambodia, 18551970, University of Hawaii Press, 2024.

略歴:テラ・トゥン氏はカンボジア出身の歴史研究者。現在、香港大学研究員、リー・コン・チアン シンガポール国立大学(NUS)–スタンフォード大学東南アジア研究特別研究員(202425年度)。京都大学東南アジア地域研究研究所特定研究員(20192022年)。

 

 


2024年6月8日

第18回 日本カンボジア研究会 プログラム

第18回日本カンボジア研究会のプログラムをお知らせ致します。

今年度も対面とオンラインのハイブリッド形式で実施いたします。

カンボジアに関わる話題を広く取り上げて議論する機会として,皆さまのご参加をお待ちしております。

オンライン参加については,事前に参加登録をお願いすることになります。追って,参加登録のご連絡させていただきますので,よろしくお願いいたします。

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期日:2024年7月13日(土)・14日(日)

開催形態:対面兼オンライン

開催場所:名古屋大学東山キャンパス アジア法交流館2階・カンファレンスルーム(愛知県名古屋市千種区不老町)

名古屋大学東山キャンパス(名古屋市千種区不老町)
https://www.nagoya-u.ac.jp/contact/directions.html
アジア法交流館2階・カンファレンスルーム (キャンパスマップC5-3

https://www.nagoya-u.ac.jp/extra/map/index.html

主催:日本カンボジア研究会

共催:名古屋大学法政国際教育協力研究センター(CALE)


7月13日(土)

12:00 開場

12:30~12:40 趣旨説明【対面】


12:40~13:30 発表(1)【オンライン】

横山未来(YOKOYAMA Miku)早稲田大学

福田莉紗(FUKUDA Risa)早稲田大学

「カンボジア考古学の教育普及―子ども向けワークショップの実践と課題」

“Educational Diffusion of Archaeology in Cambodia: Practices and Challenges of Children's Workshops”

発表要旨は、こちら


13:40~14:30 発表(2)【対面またはオンライン】

東佳史(AZUMA Yoshifumi)立命館大学

「「面従腹背」から「無気力」へ?―2022-3年カンボジア選挙結果分析」

“ 'False Obedience' or Apathy: Some Statistical Data Analyses on the 2022 and 2023 Elections”

発表要旨は、こちら


14:40~15:30 発表(3)【オンライン】

山田裕史(YAMADA Hiroshi)新潟国際情報大学

「強化されるフン・セン体制―2023年カンボジア総選挙と世襲内閣の誕生」

“The Strengthening of Hun Sen's Rule: Cambodia's 2023 National Assembly Elections and the Birth of the Hereditary Regime”

発表要旨は、こちら


15:40~16:30 発表(4)【オンライン】

イェン・チョリダー(EAN Chhorida)王立法経済大学

「カンボジアにおける裁判外紛争解決国家機構―新しい法律専門職業への導入」

“Alternative Dispute Resolution Authority in Cambodia: An Attempt to a New Legal Profession”

発表要旨は、こちら


16:40~17:10 発表(5)【対面】

<高校生によるグループ発表> 

西川公一朗(NISHIKAWA Koichiro)、佐藤遼太郎(SATO Ryotaro)成城高等学校

「カンボジア農村部におけるダンプヤード撤去は可能か?」

“Is it Possible to Abolish Dump Yards in Rural Cambodia?”

発表要旨は、こちら


17:20~18:10 発表(6)【対面】

宮島良子(MIYAJIMA Ryoko)名古屋経済大学

レイン幸代(LENG Yukiyo)国際交流基金 海外派遣日本語専門家

「クメール語による議論的作文の特徴」

“Characteristics of Argumentative Composition in Khmer”

発表要旨は、こちら


●懇親会(希望者のみ)


7月14日(日)

9:30 開場

10:00~10:50 発表(1)【対面】

北川香子(KITAGAWA Takako)学習院女子大学

「チ・ハエ興隆史」

“Rise of Chi Haer, a Chinese Village on the Mekong”

発表要旨は、こちら


11:00~11:50 発表(2)【対面】

宮沢千尋(MIYAZAWA Chihiro)南山大学

「アジア・太平洋戦争期の日本のカンボジア関与の一側面―大川塾卒業生西川寛生の日記から」

“One Aspect of Japan's Involvement in Cambodia during the Asia-Pacific War Period: From the Diary of Hiroo Nishikawa, “Okawa Juku” Graduate”

発表要旨は、こちら


11:50~13:00 昼休憩


13:00~13:50 発表(3)【対面】

ジア・シュウマイ(CHEA Seavmey)国土整備・都市計画・建設省

「アンコール遺跡のゾーン1とゾーン2における不法居住者の問題」

“The Study on Land Occupancy Issues in Angkor Site Zone 1 and Zone 2”

発表要旨は、こちら


14:00~14:50 発表(4)【オンライン】

CHIM Vutheavy, National Institute of Education

SOEUNG Sopha, National Institute of Education

“Cambodian Students' Kindergarten Experience towards Khmer Subject at the Private International Schools”

発表要旨は、こちら


15:00~15:50 発表(5)【対面】

劉澤文(LIU Zewen)下関市立大学

「カンボジアにおける中国企業による商業農産物の栽培と輸出―クロチェヘ州における大規模バナナ農園の事例から」

“Commercial Agricultural Production and Export by Chinese Companies in Cambodia: A Case Study of Large-Scale Banana Plantation in Kratie Province”

発表要旨は、こちら


16:00~16:50 発表(6)【対面またはオンライン】

吉田尚史(YOSHIDA Naofumi)早稲田大学/東京都福祉局

「在留カンボジア人労働者の健康課題とその実情―「技能実習」「特定技能」を対象として」

“Cambodian Workers' Health Issues and their Actual Conditions in Japan: Targeting“Technical Intern Training”and“Specified Skilled Worker”

発表要旨は、こちら

発表要旨(1)

横山未来(YOKOYAMA Miku)早稲田大学

福田莉紗(FUKUDA Risa)早稲田大学

「カンボジア考古学の教育普及―子ども向けワークショップの実践と課題」

“Educational Diffusion of Archaeology in Cambodia: Practices and Challenges of Children's Workshops”

(発表要旨)

 本発表は、考古学の教育普及活動の一環として、カンボジアをテーマに行った子ども向けイベントについての報告と今後の課題に関する検討を行うことを目的とする。発表者らは、考古学専攻の大学院生としての専門性および教育コンサルティングで培ったノウハウを活かした考古学の教育普及を行う任意団体を立ち上げ、子どもたちを対象に考古学の魅力と学際性を伝える活動を展開している。今回は2023年1月13日に実施した「VRで古代のカンボジアにタイムスリップ!」というイベントを中心に、考古学や文化遺産教育から広がる多様な学びの可能性について紹介する。ならびに、アンケートから見えてきた今後の国内における外国考古学の研究成果の還元や将来的な現地での教育普及活動の課題について検討する。


発表要旨(2)

 東佳史(AZUMA Yoshifumi)立命館大学

「「面従腹背」から「無気力」へ?―2022-3年カンボジア選挙結果分析」

“ 'False Obedience' or Apathy: Some Statistical Data Analyses on the 2022 and 2023 Elections”

(発表要旨)

 本発表は2018年第100回東南アジア学会にて発表した「抵抗」と「面従腹背」の間 ; 2018年カンボジア総選挙結果分析」の続編である。2023年7月23日に行われたカンボジア総選挙は最大野党であるキャンドルライト(CLP)党が参加資格剥奪という既視感のある中、有権者投票行動が注目された。中央・地方幹部逮捕を恐れたCLPはなすすべもない中、与党人民党は2018年の総選挙で見られたような威圧で応じ、与党の勝利が既定路線となった上で高い投票率を確保して選挙の正統性を担保する必要もなしに選挙はただの儀式と変容した。

 以上の構造的変化の下、総選挙は実施され、投票率は2018年総選挙の80.32%から78.28%に微減した。そして、CLPが参加できた2022年クム・ソンカット長選挙の80.32%からも減少している。これは約2割の有権者が棄権という「抵抗」を示したとも、無気力とも理解できよう。興味あるのは無効票の増加であり2018年の8.55%から5.34%と減少している。これは2018年では棄権が発覚する事による「嫌がらせ」を恐れた有権者の「面従腹背」すら不可能となった。2022年と2023年選挙結果を統計学的に分析すると2022年にCLPが得票した州での2023年選挙無効票の推移は興味ある結果が見られた。本発表ではNECの公表データとComfrel、NDE、EU等のオープンソースを統計学的分析を基に、2018年に見られた「面従腹背」すらも困難になった現状を検証する。

発表要旨(3)

 山田裕史(YAMADA Hiroshi)新潟国際情報大学

「強化されるフン・セン体制―2023年カンボジア総選挙と世襲内閣の誕生」

“The Strengthening of Hun Sen's Rule: Cambodia's 2023 National Assembly Elections and the Birth of the Hereditary Regime”

(発表要旨)

 与党・カンボジア人民党の圧勝に終わった2023年総選挙の直後、フン・セン首相は辞任を決断し、フン・マナエト首相を筆頭に人民党高級幹部の子どもたちを中心とする「世襲内閣」が発足した。なぜフン・センは大方の予想に反して早期の世襲に動いたのか。大幅に進んだ閣僚の世代交代はカンボジア政治においてどのような意味をもつのか。

 本報告は、アジア経済研究所において2023年5~10月に実施された機動研究プロジェクト「2023年カンボジア総選挙―ポスト・フン・セン時代に向けた集団的権力継承」と、2024年2月の上院選挙に関する現地調査の結果に基づき、上記の問いについて検討する。具体的には、2023年総選挙とその後の新内閣を中心とする国家機関および人民党指導部の人事の分析を行う。結論として、閣僚ポストが子世代に移譲されたことでフン・セン「政権」は終わったものの、フン・セン「体制」はこれまでよりも強化された形で続いていることを指摘する。


発表要旨(4)

 イェン・チョリダー(EAN Chhorida)王立法経済大学

(発表要旨)

「カンボジアにおける裁判外紛争解決国家機構―新しい法律専門職業への導入」

“Alternative Dispute Resolution Authority in Cambodia: An Attempt to a New Legal Profession”

 カンボジアでは裁判外紛争解決として、労働仲裁と商事仲裁という二つの分野を中心に処理している組織が存在する。労働仲裁は、共同労働紛争を対象にして処理しているが、商事仲裁は商事紛争を対象にしている。しかし、現在までは特に民事紛争全体を対象にして処理している正式的な組織はなかった。それで、司法省は各裁判所で特に問題になっているケース・オバーロードを解決する一つの措置として、裁判外紛争解決国家機構(National Authority of Alternative Dispute Resolutions:NAADR)を提案し、2023年11月2日に勅令で設立した。NAADRの目的は、①各裁判所において溜まっている事件数を減す、②紛争解決サービスを地域住民に近づける、③社会の調和と正義を確保するためだと当該勅令第1条で宣言している。しかし、NAADRの設立は各裁判所のケース・オバーロードの解決にどう繋がるのか?その調停職員は、だれなのか?この発表はNAADRについて紹介し、それに関わる法的な問題やその課題について議論する。


発表要旨(5)

<高校生によるグループ発表> 

西川公一朗(NISHIKAWA Koichiro)、佐藤遼太郎(SATO Ryotaro)成城高等学校

「カンボジア農村部におけるダンプヤード撤去は可能か?」

“Is it Possible to Abolish Dump Yards in Rural Cambodia?”

(発表要旨)

 カンボジア王国シェムリアップ州では、環境への負荷が懸念されているにもかかわらず、未だ撤去されていないダンプヤードが存在する。また、そこにはダンプヤードでゴミを拾い生計を立てているウェイスト・ピッカーが存在する。そこで、私たちはカンボジア農村部のダンプヤード撤去の可能性を明らかにするため「ウェイスト・ピッカーの雇用創出また、ダンプヤードに代わる焼却炉などの処理施設導入が撤去を可能にする」という仮説を立て、ウェイスト・ピッカーの経済状況、他業種転向支援の実態、処理施設導入の可能性を解明するために聞き取り調査(同州アンルンピー村のダンプヤードで働くウェストピッカー、バナナペーパー工房で働くウェイストピッカーが対象)を行った。その結果、元ウェイスト・ピッカーの雇用先で安定した収入が得られ、このような条件の雇用創出が撤廃に有効であるとわかった一方で、資金・技術不足により焼却炉導入が実現できていないという現状が判明した。

発表要旨(6)

宮島良子(MIYAJIMA Ryoko)名古屋経済大学

レイン幸代(LENG Yukiyo)国際交流基金 海外派遣日本語専門家

「クメール語による議論的作文の特徴」

“Characteristics of Argumentative Composition in Khmer”

(発表要旨)

 本発表は、カンボジア人が中等教育までにどのような作文(意見文)の「型」を身につけて大学に入学しているのかを明らかにしたものである。調査は3種実施した。まず1つ目は、カンボジアの高校でどのようなクメール語作文の教育がなされているのかの資料調査である。2つ目は、社会科学系の学部に所属するカンボジア人大学1年生に対して、実施した作文(議論的作文)調査である。そして、3つ目は、日本語で法学を学び、日本留学経験のあるカンボジア人に実施したインタビュー調査である。これらの調査によって、カンボジアでは「議論的作文」という形で意見文に類似したものを書く指導がなされていることが判明した。そして収集した作文及びインタビュー調査からは、大学入学までに作文の一定の「型」を身につけていること、日本の「私見」とは異なる「カンボジア的私見」が重視されていることが判明した。


発表要旨(1)

北川香子(KITAGAWA Takako)学習院女子大学

「チ・ハエ興隆史」

“Rise of Chi Haer, a Chinese Village on the Mekong”

(発表要旨)

本報告はカンボジア国立公文書館所蔵文書RSC8186、Dossier divers relatif à la ville de Chihe, Kompong Cham: adjudications, listes des propriétaires de terrain, plan du lotissement du centre de Chihe (1913-1931)およびフランス海外公文書館(エクサンプロヴァンス)が所蔵するコムポン・チャーム理事官府定期報告書を主たる資料とする。

 フランス植民地期にメコン川は仏領インドシナを南北に貫く動脈となり、その影響を受けた沿岸地域は著しく活性化した。とくに1897年12月17日のコムポン・チャーム理事官府再開後、現在のコムポン・チャームの町の原型が構築され、地域の政治、商業、教育、医療等のセンターとして急速に発展していくとともに、流入した中国人人口により、チ・ハエなどの新たな河港町も出現した。

 チ・ハエはコムポン・チャームの町の南、メコンの中州コッ・ソテンの正面、トンレー・トム(メコン川)とトンレー・トーチの分岐点近くに位置し、植民地期まではポスト・アンコール時代の中心地の一つであるスレイ・サントー地方に属していた。植民地期の文献には主要なメコン河港の一つとして頻出するが、現在ではほとんど忘れ去られてしまっている地でもある。本報告ではメコン沿岸地域史研究の一環として、文献史料から明らかになるチ・ハエの興隆過程を紹介する。

発表要旨(2)

 宮沢千尋(MIYAZAWA Chihiro)南山大学

「アジア・太平洋戦争期の日本のカンボジア関与の一側面―大川塾卒業生西川寛生の日記から」

“One Aspect of Japan's Involvement in Cambodia during the Asia-Pacific War Period: From the Diary of Hiroo Nishikawa, “Okawa Juku” Graduate”

(発表要旨)

 大川周明が設立した「アジアの被植民地解放」のために現地に赴いて働く人材を養成した「大川塾」卒業生であり、ベトナムの民族独立運動を援助していた「アジア主義的企業家」である松下光廣が起こした現地企業、大南公司の社員であった西川寛生という人物がいる。彼が現地で1940年9月から1945年9月までつけていた日記を基に、極めて断片的ではあるが、大南公司のカンボジアでの事業展開、西川のカンボジア観、1945年5月から6月にかけて、彼が関わった「カンボジア工作」について述べる。それにより、アジア・太平洋戦争期の日本のカンボジア関与の一側面を明らかにし、今後の研究への展望に関しても述べる。併せて、先行研究の整理も行いたい。発表者はベトナム研究者なので、カンボジア研究者の皆様からのご教示を願う次第である。


発表要旨(3)

 ジア・シュウマイ(CHEA Seavmey)国土整備・都市計画・建設省

「アンコール遺跡のゾーン1とゾーン2における不法居住者の問題」

“The Study on Land Occupancy Issues in Angkor Site Zone 1 and Zone 2”

(発表要旨)

 本稿は、「アンコール遺跡のゾーン1とゾーン2に住んでいる不法居住者の問題」である。発展途上国における世界遺産の保護は、世界遺産を保護しながら、住民の経済活動や都市開発との両立に立ち向かう必要がある。実際、2008年から住民の増加に伴う違法建設の拡大が起因に、アンコール遺跡に悪影響を与えている。アンコール遺跡の特別な事情としては、世界遺産に登録された後も、昔からの住民を追い出さず、占有を認める一方で、所有権の付与を認めていないことがある。この問題は長年の課題であり、違法建造物の撤去が「アンコール地域からの難民」を生み出しているという住民からの批判を受けながら、政府は「適切な環境で家を建てること、かつ、移転先で法的な所有権を付与すること」という方針であり、対立が続いている。まとめは、①不法居住問題を取り巻く様々な問題点の概括、②上述した問題点を踏まえて再検討すべきタスクについて触れた。

発表要旨(4)

CHIM Vutheavy, National Institute of Education

SOEUNG Sopha, National Institute of Education

“Cambodian Students' Kindergarten Experience towards Khmer Subject at the Private International Schools”

(発表要旨)

 Purpose: This study aims to report lower secondary school students’perceptions of learning Khmer, a local language, through their kindergarten experience.  

 Method: This study purposively collected data from 30 students, studying at four international schools in Phnom Penh, using semi-structured interviews. They experienced in three programs: English kindergarten, Khmer kindergarten, dual kindergarten program. Only Khmer is used as a medium of instruction in the Khmer kindergarten, and only English is used in English kindergarten.

 Findings: Kindergarten experience impacts the attitude to Khmer subject and to Khmer-subject teachers. Student experienced in Khmer kindergarten shows positive attitude to both subject and teachers. However, students in other two programs explicitly expressed they lost all freedom and felt bored during Khmer class.

 Conclusion: When students don't experience in Khmer learning environment, they seem to face more challenges in learning Khmer and building a good rapport with their Khmer-subject teachers. Although Khmer is set as a compulsory subject at International school, the Ministry of Education should consider to promote Khmer kindergarten as the only gate to general education.

発表要旨(5)

 劉澤文(LIU Zewen)下関市立大学

「カンボジアにおける中国企業による商業農産物の栽培と輸出―クロチェヘ州における大規模バナナ農園の事例から」

“Commercial Agricultural Production and Export by Chinese Companies in Cambodia: A Case Study of Large-Scale Banana Plantation in Kratie Province”

(発表要旨)

 2010年以降、カンボジアの農産物輸出が急速に成長している。2000年代前半までの農業生産は極めて自給自足的な構造であった(天川 2006)。2010年代以降は、コメやキャッサバの輸出向け商業農産物の生産が拡大した。その要因として、道路整備や灌漑水路の整備による栽培集約化、タイやベトナムからの買付け需要の増加が指摘された(矢倉 2021;高堂他 2021)。

 2010年代後半以降は、バナナ輸出が急増している(ODC)。しかし、輸出農産品の品目変化とその要因は、詳細に検討されていない。本報告は、その主な担い手である中国企業の生産活動に着目し、バナナの生産輸出拡大の要因を解明することを目的とする。

まず、カンボジア税関や国際機関の統計データにより、コメ、キャッサバ、バナナなどの農産品輸出がタイ、ベトナム、中国向けに拡大している貿易構造を分析する。次いで、クロチェヘ州のバナナ農園で実施した現地調査に基づき、中国企業が大規模な農地を取得し、機械化による集約的農業生産によって、輸出向け農産物生産の担い手となったことを明らかにする。

発表要旨(6)

 吉田尚史(YOSHIDA Naofumi)早稲田大学/東京都福祉局

「在留カンボジア人労働者の健康課題とその実情―「技能実習」「特定技能」を対象として」

“Cambodian Workers' Health Issues and their Actual Conditions in Japan: Targeting“Technical Intern Training”and“Specified Skilled Worker””

(発表要旨)

 本邦における外国人労働者の数は増加の一途をたどっている。彼らの健康課題やそれへの対応、そして支援はどのような実情なのだろう。本発表では、カンボジアから来日する労働者のうち、2つの在留資格「技能実習」「特定技能」を対象とし、彼らの健康、とくにメンタルヘルスの課題とその実情について検討を行う。そのさい依拠するのは、官公庁・公的機関が公開している統計データを含めた資料と先行研究の文献サーベイ、発表者による国内・国外でのフィールド調査である。本発表は途中経過ではあるが、健康課題との関わりで、日本側(在留外国人労働者への医療・福祉上の公的な対応と支援、受入機関等)のみならず、カンボジア側(本国政府の対応、送出機関等)の状況に基づき、これら2つの在留資格で来日するカンボジア人労働者の実情について報告する。