仙人の会10月例会について、下記のとおりご案内申し上げます。
今回は戦時下ベトナム・メコンデルタについてのご発表です。
事前申込等は必要ありません。お誘い合わせの上、ぜひご参加下さい。
日時:10月13日(日)14:00~18:00
※当日は資料・お茶代として200円いただきます。
(例会終了後には、会場近くで懇親会を予定しています。)
場所:法政大学市ヶ谷キャンパス 新見附校舎A305教室
アクセス:http://www.hosei.ac.jp/gaiyo/campus/ichigaya/ichigaya.html
校舎:http://www.hosei.ac.jp/gaiyo/campus/ichigaya/index.html
発表者:下條尚志さん
(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科 東南アジア地域研究専攻)
題目:「戦時下ベトナム・メコンデルタにおける統治をめぐるせめぎあい」
要旨: 本研究はベトナム戦争時代のメコンデルタ地方における地域社会-公権力間で繰り広げられた統治をめぐるせめぎあいを解明する。具体的には,隣国カンボジアと関わりが深いクメール人を中心に,華人,ベトナムの多数派ベト人が混住する地域社会に焦点を当て,人々が戦争によっていかなる変化を迫られ,その変化にどう対処をしたのかを明らかにする。
本研究では,国家秩序をめぐり対立しあう南ベトナム政府,革命勢力の2つの公権力と,ローカル秩序に生きる人々との間で,「統治をめぐるせめぎあい」が生じていたと考える。統治をめぐるせめぎあいとは,政策を施行する公権力と,政策を回避,ないしは受容する人々が,資源の配分や価値をめぐって対立したり折衝したり,相互に作用しあうことである。2つの公権力は,地域社会の人々の支持を獲得して資源と兵力を確保するべく,農地改革の実施や仏教・「民族」の擁護を標榜して統治領域を競いあった。人々は,経済状況を改善しうる農地改革などは受容していたが,生活に危機をもたらす政策,特に徴兵は,権力の統治が及びにくい場所,言わば回避の「場」を介して成立していたローカル秩序に依拠し,回避した。人々は商業の場である市場を介して物資を革命勢力,南ベトナム政府両方に売却することで,中立を保った。またある者は出家して,国外のカンボジアという,過去から商業や仏教を通じてメコンデルタと交流が盛んであった場に逃避した。国外逃避が困難になると,徴兵から逃れるために家族の場である家屋に隠れたり,地域社会の信仰の場である寺院において,政府の許可なく出家したりする者が現れた。こうした回避行動は個人・家族規模の営為であったが,それが生きる上で順当な判断であるという回避の「場」に集まる人々の暗黙の了解,協力関係に支えられていた。
本研究は,ベトナム戦争時代,回避の「場」となった家屋や市場,寺院などを介して成立していた協力関係が,生活の安定を求める人々が依拠したローカル秩序であったことを実証する。さらには,地域社会内やベトナム国内のみならず,カンボジアまで広がって点在する様々な「場」を介して成立するローカル秩序を拠り所に,人々は生活危機を回避し,その便乗者が,地方幹部を巻き込んで増加するにつれ,資源や兵力を確保できなくなった南ベトナム政府は弱体化していったことを示す。つまり,人々の回避行動の力が公権力を動かしていた。
お問い合わせ先:
仙人の会 幹事
sennin.no.kai[at]gmail.com
[at]を@に変えて送信下さい。