2013年6月9日

6/29 第7回日本カンボジア研究会、発表要旨2

「カンボジアにおけるポル・ポト時代後の教師像
―カンダール州前期中等教員養成校教師のライフヒストリーから―」

千田沙也加(名古屋大学大学院教育発達科学研究科、日本学術振興会特別研究員)

 本発表は、ポル・ポト時代後のカンボジアにおける教師像を、教師のライフヒストリーという形で、すなわち一般的な教師像としてではなく事例として詳細にどのような人物であったのか描き出すことを目的とする。ポル・ポト政権の後を継いだヘン・サムリン政権期(1979―1989年)の教育に関する研究は、管見の限りでは少ない。教師に関しては、「多少の学歴により採用された教師像」がステレオタイプとして一般論化している一方、その時代の教師の実態に関する詳細はこれまで明らかにされていない。またヘン・サムリン時代の教師像を検討することは、今日の教育開発において中心的な存在である現在の教師たちの背景を深く理解する一助にもなると考える。

 本発表では、前期中等教員を養成する機能を持つカンダール州地域教員養成校を調査地とし、同校の設立時から教師を務めてきた現在の校長に対する聞き取り調査にもとづき、ライフヒストリーを作成する。また、同じくヘン・サムリン時代から教師であった他2名のライフヒストリーも参照し、1980年代以降の同校における教師像を検討する。そしてそこから、ポル・ポト時代以前の学歴だけでなく、彼らと地域とのつながり、ヘン・サムリン時代の前半と後半における教師像の違い、またこの時代の前期中等教員養成方法などの論点を提示する。