2020年11月4日

11/29 第14回日本カンボジア研究会(オンライン開催)

 第14回日本カンボジア研究会プログラム


期日:2020年11月29日(日) オンライン開催


10:00~11:00 発表(1)

吉田尚史(YOSHIDA Naofumi)立正大学社会福祉学部・特任教授

「精神疾患概念の医療人類学的研究―カンボジアにおける精神医療の変遷をめぐって」

"A Medical Anthropological Study of Mental Illness Concepts: Psychiatric Care Transition in Cambodia"

発表要旨は、こちら


11:00~12:00 発表(2)

小坂井真季(KOZAKAI Maki)東京大学未来ビジョン研究センター・学術支援職員

「チャイルド・ケアの脱施設化論の再検討―カンボジア・バッタンバン州を例に」

"Re-examining Deinstitutionalization Theory of Child Care: A Case Study of the Battambang Province in Cambodia"

発表要旨は、こちら


12:00~13:00 休憩


13:00~14:00 発表(3)

岩元真明(IWAMOTO Masaaki)九州大学芸術工学研究院・助教

「近代建築家ヴァン・モリヴァンの内戦前後の活動について」

"Activities of Modern Architect Vann Molyvann before and after the Cambodian Civil War"

発表要旨は、こちら


14:00~15:00 発表(4)

千田沙也加(SENDA Sayaka)名古屋女子大学他・非常勤講師

「クルー・チャッタンの『生きられた歴史』にみるポル・ポト政権期後カンボジアの初等教育―地方都市における教師への聞き取り調査から」

"The Elementary Education After the Pol Pot Regime from ‘Lived History’ of Kru-Jat-tang: An Analysis of  Local Teacher’s Narratives"

発表要旨は、こちら


15:00~16:00 発表(5)

新谷春乃(SHINTANI Haruno)日本学術振興会特別研究員PD

「独立後カンボジアにおける自国史叙述の展開(1953-2018年)」

"Historiography of Cambodia since Independence (1953-2018)"

発表要旨は、こちら


16:00~17:00 座談会

話題提供(1)

田畑幸嗣(TABATA Yukitsugu)早稲田大学

「コロナ禍中でのカンボジア現地調査について」


話題提供(2)

笹川秀夫(SASAGAWA Hideo)立命館アジア太平洋大学

「オンラインおよび国内で入手可能なカンボジア関連資料」

発表(1)要旨

 吉田尚史(YOSHIDA Naofumi) 立正大学社会福祉学部・特任教授

「精神疾患概念の医療人類学的研究―カンボジアにおける精神医療の変遷をめぐって」

"A Medical Anthropological Study of Mental Illness Concepts: Psychiatric Care Transition in Cambodia"

本発表は、精神疾患概念についての医療人類学的な研究であり、フィールドワーク、すなわち参与観察(病院)、インタビュー(患者・僧侶)、資料収集(公文書館・保健省・専門医論文など)に基づく。遠い過去(フランス植民地時代)、近い過去(ポル・ポト時代)、現在まで(和平協定以降)の3期に分けてカンボジアにおける精神医療の変遷をめぐる。そこから得た結果を通じて明らかにすべき三つの問いに答える。一つ目は、カンボジア人にとって精神疾患概念とは何かである。移民・難民として移住した国「外」のカンボジア人らも対象として検討する。二つ目は、どのようなリアリティでもって精神疾患が世界に存在しているのかという問いである。三つ目は、多文化間の精神保健分野での実践に関わり、精神疾患概念の研究がどのように役立つかという点である。なお本論は博士学位請求論文(2019年度、早稲田大学)による。

発表(2)要旨

 小坂井真季(KOZAKAI Maki)東京大学未来ビジョン研究センター・学術支援職員

「チャイルド・ケアの脱施設化論の再検討―カンボジア・バッタンバン州を例に」

"Re-examining Deinstitutionalization Theory of Child Care: A Case Study of the Battambang Province in Cambodia"

家庭での養育を受けられない子どもたちを施設で養育することは多くの国で行われてきたが、近年は施設養護ではなく家庭的な環境下での養育が望ましいとされ、「脱施設化」が進行している。本研究は、伝統的にキンシップによる代替的養護が浸透している中でケア施設が広まり、現在急速に脱施設化を進めているカンボジアを事例とし、社会とケア施設との関係性に着目し、施設養護が退所後の自立に対して果してきた役割の再評価を行った。文献調査及びバッタンバン州にある施設での参与観察、インタビュー調査に加え、退所者の追跡調査を行い入居者の退所後の生活を追った。

結論として、脱施設化の流れの中で、ケア施設は単なる「箱」として衣食住や教育の提供のみならず、支援や職員や入居者との日常生活を通して派生する様々な副次的な要素を提供し、複合的に入所者の自立を支援しているとの考察を得た。支援を目的とした不必要な長期間入所や、特段の事情がない施設入居は避ける必要があるが、カンボジア固有の事情を鑑み、脱施設化が進む中でも個々人の事情を正確に判断し、必要があれば施設入居が1つの選択肢となりうることが結論として示された。

発表(3)要旨

 岩元真明(IWAMOTO Masaaki)九州大学芸術工学研究院・助教

「近代建築家ヴァン・モリヴァンの内戦前後の活動について」 

"Activities of Modern Architect Vann Molyvann before and after the Cambodian Civil War"

フランスから独立を果たした1953年から内戦が勃発する1970年までの17年間、カンボジアはノロドム・シハヌークのリーダーシップの下で未曾有の近代化を体験した。この間に展開された近代建築運動は「新クメール建築」と呼ばれ、国家建設と近代建築が結びついた好例として、東南アジアにおいて独特の建築運動が形成された希有な事例として、国際的に再評価の機運が高まっている。このような中で、ノロドム・シハヌークに重用され、数々の国家的プロジェクトを牽引したヴァン・モリヴァンの活動を把握することは建築史的にきわめて重要である。本発表では、拙・博士論文「カンボジアの建築家ヴァン・モリヴァン(1926-2017)に関する建築史的研究:国家揺籃期における建築家の課題」(2020)に基づき、ヴァン・モリヴァンがいかにしてクメール人初の公認建築家となったか、いかにして数々の国家的プロジェクトを遂行したか、亡命期にはいかなる活動を行っていたか、建築史の立場から概観する。また、「オリンピック・スタジアム」と渾名されるナショナル・スポーツ・コンプレックス(1964)を例として、ヴァン・モリヴァンの建築作品の特徴について考察する。

発表(4)要旨

 千田沙也加(SENDA Sayaka)名古屋女子大学他・非常勤講師

「クルー・チャッタンの『生きられた歴史』にみるポル・ポト政権期後カンボジアの初等教育―地方都市における教師への聞き取り調査から」

"The Elementary Education After the Pol Pot Regime from 'Lived History' of Kru-Jat-tang: An Analysis of Local Teacher's Narratives"

本発表は、2019年度名古屋大学大学院教育発達科学研究科に提出した同タイトルの博士学位論文の要約である。本研究の目的は、カンプチア人民共和国期の初等教育再建の意味や価値をローカルで個別的な観点から明らかにすることである。2013年から2018年に、5回の短期現地調査を、それまでに青年海外協力隊として滞在した地域で実施した。調査では、教科書及びカリキュラムの収集、小学校教師経験者24名に対して聞き取りを行った。聞き取りに基づきライフヒストリーを作成し、語りを合わせて「生きられた歴史」として、考察の対象とした。本研究の結果、クルー・チャッタンたちは、政権が目指した社会主義教育に無関心で、とくに主要教科とされた「労働」に対して、ポル・ポト政権との連続性を認識していた。加えて、「できる人ができない人を教える」という政権側のスローガンが、ポル・ポト政権期以前の知識や技術の適用を暗に認めており、クルー・チャッタンたちは、自らの学習経験に基づいた教育を実践した。また、学歴が高く知識の豊富な教師を含む共同体意識と知的な相互扶助の実践家としてのクルー・チャッタンの特質を明らかにした。

発表(5)要旨

 新谷春乃(SHINTANI Haruno) 日本学術振興会特別研究員PD

「独立後カンボジアにおける自国史叙述の展開(1953-2018年)」

"Historiography of Cambodia since Independence (1953-2018)"

本報告は、2019年度に東京大学へ提出した博士論文「独立後カンボジアにおける自国史叙述の展開(1953-2018年)」を元とする。本研究は、独立後のカンボジアにおいてナショナリズムとの関係からその重要性が指摘されてきた自国史叙述に焦点を当て、背景となる政治・言論環境と歴史教育・研究の史的展開を概観した後、叙述の創出、再編、再解釈を動態的かつ包括的に検討したものである。独立後の自国史叙述は、カンボジアを消滅に導きうる内外の他者とその他者からカンボジアを救う護持者をめぐる叙述を軸として展開した。外部の他者をめぐる叙述はベトナムを中心に展開し、政治的・軍事的脅威の高まりと連動して見直された一方、内なる他者となった民主カンプチア体制をめぐっては、歴史叙述や文教政策が国内政治や市民社会の影響を受けて再編された。このような他者の脅威からカンボジアを救う護持者をめぐる叙述の展開は、伝統的統治者である王と、フン・センによる英雄像が軸となり、指導者の転換が叙述転換の契機になった。これら他者と護持者をめぐる叙述はそれぞれの語りの中に取り込まれ、補完関係にあった。このような歴史叙述の転換は思想的観点から現代史の時代区分を再考しうるものである。