2020年11月4日

発表(2)要旨

 小坂井真季(KOZAKAI Maki)東京大学未来ビジョン研究センター・学術支援職員

「チャイルド・ケアの脱施設化論の再検討―カンボジア・バッタンバン州を例に」

"Re-examining Deinstitutionalization Theory of Child Care: A Case Study of the Battambang Province in Cambodia"

家庭での養育を受けられない子どもたちを施設で養育することは多くの国で行われてきたが、近年は施設養護ではなく家庭的な環境下での養育が望ましいとされ、「脱施設化」が進行している。本研究は、伝統的にキンシップによる代替的養護が浸透している中でケア施設が広まり、現在急速に脱施設化を進めているカンボジアを事例とし、社会とケア施設との関係性に着目し、施設養護が退所後の自立に対して果してきた役割の再評価を行った。文献調査及びバッタンバン州にある施設での参与観察、インタビュー調査に加え、退所者の追跡調査を行い入居者の退所後の生活を追った。

結論として、脱施設化の流れの中で、ケア施設は単なる「箱」として衣食住や教育の提供のみならず、支援や職員や入居者との日常生活を通して派生する様々な副次的な要素を提供し、複合的に入所者の自立を支援しているとの考察を得た。支援を目的とした不必要な長期間入所や、特段の事情がない施設入居は避ける必要があるが、カンボジア固有の事情を鑑み、脱施設化が進む中でも個々人の事情を正確に判断し、必要があれば施設入居が1つの選択肢となりうることが結論として示された。