2020年11月4日

発表(4)要旨

 千田沙也加(SENDA Sayaka)名古屋女子大学他・非常勤講師

「クルー・チャッタンの『生きられた歴史』にみるポル・ポト政権期後カンボジアの初等教育―地方都市における教師への聞き取り調査から」

"The Elementary Education After the Pol Pot Regime from 'Lived History' of Kru-Jat-tang: An Analysis of Local Teacher's Narratives"

本発表は、2019年度名古屋大学大学院教育発達科学研究科に提出した同タイトルの博士学位論文の要約である。本研究の目的は、カンプチア人民共和国期の初等教育再建の意味や価値をローカルで個別的な観点から明らかにすることである。2013年から2018年に、5回の短期現地調査を、それまでに青年海外協力隊として滞在した地域で実施した。調査では、教科書及びカリキュラムの収集、小学校教師経験者24名に対して聞き取りを行った。聞き取りに基づきライフヒストリーを作成し、語りを合わせて「生きられた歴史」として、考察の対象とした。本研究の結果、クルー・チャッタンたちは、政権が目指した社会主義教育に無関心で、とくに主要教科とされた「労働」に対して、ポル・ポト政権との連続性を認識していた。加えて、「できる人ができない人を教える」という政権側のスローガンが、ポル・ポト政権期以前の知識や技術の適用を暗に認めており、クルー・チャッタンたちは、自らの学習経験に基づいた教育を実践した。また、学歴が高く知識の豊富な教師を含む共同体意識と知的な相互扶助の実践家としてのクルー・チャッタンの特質を明らかにした。