矢倉研二郎(YAGURA Kenjiro)阪南大学
「カンボジアにおける若年層の急速な脱農化の要因―2つの稲作農村出身の既婚農村子弟に関する事例研究」
“Factors promoting the rapid de-agrarianization of Cambodian rural youth: A Case study of married children from two rice villages”
カンボジアでは近年,若年層を中心に農業就業者の減少が急速に進んだ.本研究ではポーサット州とプレイヴェーン州の2つの稲作農村で2009年と2020年に収集された世帯主の既婚の子どものデータを分析することで,この2時点間における若年層の脱農メカニズムの解明を試みた.その結果,農地相続面積の減少や学歴の上昇の効果は大きくはなく,出稼ぎ先で知り合った相手との結婚の増加が農業従事者比率低下の約4分の1を説明する大きな要因であることが明らかになった.これは,独身者による出稼ぎという形態での非農業部門への就業の増加そのものではなく,それによる通婚圏の拡大が結婚後の非農業就業を促進して脱農を加速化させたことを意味する.
さらに,2020年のデータにおいては,親の農地所有面積が小さいほど出稼ぎ先で知り合った相手と結婚する確率が高い傾向がみられた.これは,結婚後に親から相続できる農地が少なく農業で生計を立てることが困難と予期した若者が,結婚後に非農業に従事することも念頭において出稼ぎ先で出会った相手との結婚を意識的に選択した可能性を示唆する.