2018年6月11日

7/1 発表要旨(7)

由比邦子(桃山学院大学国際教養学部・非常勤講師)
Dr. Yuhi Kuniko, Part-time Lecturer , Faculty of International Studies and Liberal Arts, Momoyama Gakuin University

アンコール浮彫の弓形ハープ図像をめぐって
Some Remarks on Arched Harps depicted on the Stone Reliefs of Angkor Sites

アンコール諸遺跡の壁面浮彫には多種の奏楽場面が描かれているが、中でも弓形ハープの事例は東南アジアの他の遺跡に比べて格段に多い。アンコール浮彫の弓形ハープ図像にはいくつかの際立った特徴が見られるが、中でも特筆すべきはネックの先端が鳥の頭となっているハープが数体存在することである。これは明らかに“鳳首箜篌”と呼ばれるインド起源の弓形ハープを文字通りに描いたものと考えられる。『新唐書』には驃国の使節がもたらした鳳首箜篌についての記述が見られるが、演奏図像として残るのは東南アジアではアンコール浮彫のみである。
アンコール浮彫には“鳳首”を持たない弓形ハープの図像も存在するので、“鳳首箜篌”といえども必ずしもネック先端に鳳首がついているとは限らない。実際、ミャンマーに現存する弓形ハープのサウン・ガウッには、『新唐書』の記述とは異なり鳳首はない。アンコール浮彫は鳳首箜篌が実用に供されていることを証明するのみならず、現在ではほぼ消滅してしまった弓形ハープがかつては生き生きと奏されていた実態を示す貴重な音楽学的史料といえる。