2010年9月4日

9/11 第2回プノンペン部会、要旨3

傘谷祐之(名古屋大学大学院 法学研究科 博士後期課程)
「フランス植民地期カンボジアにおける「近代的」司法官の形成過程」

本報告は、フランス植民地期カンボジアの上級司法官らの経歴の変化を検討するものである。
報告者の課題は、植民地期カンボジアで行われた司法制度の「近代化」について、その成果と問題点を明らかにすることである。報告者のこれまでの研究によれば、フランスの被保護国であったカンボジアは、1897年から司法組織改革を開始し、数次にわたる王令の布告を経て、1922年までに新たな司法組織を整備した。1922年に完成した司法組織の特徴は、司法組織と行政組織とが分離していること、司法官の身分を金銭面で保障しつつ、植民地当局による監督を規定したこと、等である(2008年7月の第三回「大陸部新時代」研究会における報告者による発表「フランス植民地期カンボジアにおける司法組織改革 ―1863年から1922年までの時期を中心として―」)。しかし、以上のような制度面での改革が、司法組織の 運用を担うべき司法官にまで影響を与えたか否か、は、別途検討すべき問題として残っていた。
そこで、報告者は、官報、閣議議事録、および、上級司法官らの個人ファイル等をもとに、上級司法官らの経歴を分析した。対象としたのは、記録の残る1897年以降に控訴審(第二審)・破毀審(日本で言う第三審)を担当する裁判所に所属した司法官らである。その結果、1897年当時の上級司法官には軍隊や王宮で勤務した経験を持つ者が多いが、その後は、植民地当局で働いた経験を持つ通訳などが上級司法官に登用されるようになったことがわかった。報告では、このような上級司法官らの経歴の変化から読み取れる司法の「近代化」について検討する。

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