2010年9月4日

9/11 第2回プノンペン部会、要旨1

大坪 加奈子(九州大学大学院人間環境学府博士後期課程)
「カンボジア農村における寺院の地域開発活動
 ―寺院・僧侶と地域住民の相互作用をめぐって―」

本報告の目的は、カンボジア農村における寺院および僧侶の地域開発活動の系譜を明らかにし、それらと地域住民の相互作用を検討することである。
近年、オルタナティブな開発や内発的発展における地域開発の担い手として寺院や僧侶が行う種々の活動が注目されている。開発政策における潮流の中で、経済開発から社会開発や人間開発へと重点が置かれるようになり、僧侶の多様な開発活動は既存の地域資源の有効利用による文化や伝統に根ざしたものとして期待されている。カンボジアにおいても、開発研究者は効果的な住民参加という観点から僧侶や寺委員会を考察の対象とし、開発実務者は寺院や僧侶を活用すべき資源と見なし、様々な開発プロジェクトの中に取り込み、実践してきた。開発活動に従事する僧侶は「開発僧」と称され、タイを中心として研究が進められており、カンボジアではタイの流れを汲んで開発研究者や実務者により一部の著名な「開発僧」に関しての事例報告・紹介がなされてきた。
しかし、先行研究の多くが、「開発僧」と称される地域開発活動に従事する僧侶の思想や活動に終始し、俗人である地域住民に着目されることがなかった。地域住民の意味社会において、どのような理由で寺院や僧侶の地域開発活動に関わるのかについて検討する作業が欠落している。僧侶は厳しい戒律を保持しており、単独で活動を行うことが極めて困難であるため、僧侶の手足となって動く地域住民の協力がなければ、僧侶はいかなる地域開発活動も行うことができない。さらに、地域開発活動の財源は地域住民の寄進によるものであり、寺院および僧侶と地域住民は不可分の関係にある。したがって、なぜ地域住民が寺院および僧侶の地域開発活動に協力するのか、なぜ寄進を行うのか、という地域住民の行動の淵源を読み解く必要があるのではないだろうか。
そこで本報告では、地域住民の主観的意味を重視し、スヴァーイリエン州に位置するCT寺を舞台に、寺院および僧侶の地域開発活動の系譜を明らかにし、それらと地域住民の宗教意識・実践との連関を明らかにしていく。アンケート調査による定量的分析から観念と行為をめぐる現実態の全体像を理解するためのひとつの視点を供する。

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