2019年4月13日

5/11 東南アジア考古学会第264回例会

東南アジア考古学会では第264回例会として、東南アジア古代史科研との共催でワークショップ「東南アジア古代寺院建築の配置構成と図像に込められた世界観」を開催いたします。プログラムと発表要旨は下記の通りです。お手数ですが、参加ご希望の方は末尾の連絡先まで参加をお申し込みください。

日時:5月11日(土)12時50分-17時50分

場所:早稲田大学戸山キャンパス33号館6階第11会議室

プログラム:
12時30分 開場

12時50分 開会

13時00分~13時50分 発表1 青山 亨(東京外国語大学)

13時50分~14時40分 発表2 寺井 淳一(東京外国語大学)

14時40分~15時30分 発表3 久保 真紀子(立正大学)

15時30分~15時45分 コメント1 淺湫 毅(京都国立博物館)

15時45分~16時00分 休憩

16時00分~16時40分 発表4 小野 邦彦(サイバー大学)

16時40分~17時30分 発表5 下田 一太(筑波大学)

17時30分~17時45分 コメント2 重枝 豊(日本大学)

17時50分 閉会

※閉会後、会場付近で懇親会を予定しています。

発表要旨:
【発表1】
発表者:青山 亨

発表題目:プランバナン寺院のラーマーヤナ浮彫が描く「死」のエピソード:テクストとしての浮彫と書承テクストとの比較の視点から

発表要旨:
 この報告では、9世紀中頃に中部ジャワに建立されたプランバナン寺院に描かれたラーマーヤナ浮彫を対象に、テクストとしての浮彫と書承テクストを比較することから見えてくる当時のジャワ社会の文化状況を明らかにしようとする。当時のジャワ社会ではヴァールミーキ版、バッティ版、古ジャワ語版、さらに口承のテクストがラーマーヤナに関わる知として共有されていた。ダンダカの森を場面とする「死」に関わるエピソードは、ヴァールミーキ版には7件、浮彫には5件が描かれている。これらの「死」は、ラーマによってもたらされる懲罰的な「死」(A)および恩寵的な「死」(B)、修行者による解脱に至る「死」(C)、ラーマ以外の人物によってもたらされる「死」(D)の4類型がある。書承テクストでは4類型がすべて描かれるが、浮彫ではC類型のエピソードは省略されるかB類型に置き換えられている。このような書き換えは、バラモン教学に基づく修行による解脱に比べて、ヴィシュヌ神の転生であるラーマによる恩寵的な「死」が、ジャワのアニミズム的憑依と離脱の発想とも親和性があり、王権を強化しつつあった当時のジャワ社会と適合的であるとする浮彫の作者の判断によるものと推測される。

【発表2】
発表者:寺井 淳一

発表題目:ミャンマー・バガン遺跡で見られる四仏・五仏の諸相とそれらを巡る祠堂空間の検討

発表要旨:
 中央公論美術出版より今年2月に刊行された肥塚隆責任編集『アジア仏教美術論集 東南アジア』所収の拙論「バガン遺跡における本尊初探−11世紀〜14世紀の四仏・五仏を中心に」では、祠堂の中心に祀られた本尊の類型を示し、その中でも重要な位置を占めていた四仏・五仏を取り上げ、その図像的特徴や祠堂に属する刻文の検討から、それらが過去四仏と未来仏を表す可能性が高いことを指摘した。また、このような四仏・五仏を祀る習慣が形成された背景には、ミャンマー地域でバガン朝成立以前に仏教を受け入れた諸民族との文化的交渉や、インドやスリランカなどの周辺地域との人・モノの交流があったことにも触れた。ただ、壁画などの本尊を取り巻く周辺の状況を含めた検討が不十分であった憾みがあった。本報告では、拙論で紹介しきれなかったバガン遺跡における四仏・五仏の諸相を示し、祠堂内の壁面に描かれた画題も含めて、全体としてどのような空間を作り出そうとしているのかを明らかにし、拙論の捕捉を行う。

【発表3】
発表者:久保 真紀子

発表題目:アンコールの仏教寺院プレア・カンにみられるヒンドゥー教図像と統治理念

発表要旨:
 アンコール朝の最大版図を築いたジャヤヴァルマン7世は大乗仏教を篤信し、その治世に大規模な仏教寺院を次々と建立した。その一つであるプレア・カンでは、観音菩薩を本尊としながらも、伽藍西側と伽藍北側には、ヴィシュヌやシヴァ、あるいはラーマやクリシュナといったヒンドゥー教図像が浮彫され、伽藍全体として仏教とヒンドゥー教の諸尊が併祀されていた様子がうかがえる。
本発表ではこうした尊像配置に着目し、この寺院伽藍にヒンドゥー教尊像を祀った意図や背景を考察する。具体的には、遺跡で発見された碑文をもとに、アンコール朝の王たちが巡礼した地方寺院における信仰、ならびにジャヤヴァルマン7世統治期のアンコール朝と周辺諸勢力との関係がプレア・カンの尊像配置に与えた影響を検討する。結論として、本尊の観音菩薩を中心にその周囲を諸尊が取り囲むプレア・カンの尊像配置は、当時のアンコール朝と周辺諸地域との関係性を象徴した縮図であった可能性を示す。さらに、王の雄姿を神々や英雄たちに仮託して寺院伽藍の各所に浮彫することで、ジャヤヴァルマン7世が自らの偉業を顕示し、その支配を正統化する意図があったことを指摘する。

【発表4】
発表者:小野邦彦

発表題目:祠堂の平面に図像化された神観念の始原と展開―古代ジャワのヒンドゥー寺院のコスモロジー―                                     

発表要旨:
 7世紀末頃から16世紀前半頃までにかけて、ジャワ島の中東部を中心に「ヒンドゥー・ジャワ芸術」が興隆し、とくに高度な文化を発展させたその時代は「古代」と呼び慣らわされている。そして、インド文化を源泉とする美術遺品の中で、ヒンドゥー教および仏教の神仏を祀る宗教建造物は、一般にチャンディ(candi)と総称されている。
 チャンディの大半を占める寺院建築のうち、本発表ではヒンドゥー寺院を取り上げ、祠堂建築の堂内や壁龕に安置された尊像配置に認められる規則性について、通説化された解釈を紹介する。そして、尊像の選択と配置に反映された思想、すなわち祠堂の平面に図像化された神観念について、「ヴァーストゥ・シャーストラ」などと呼ばれるインドの建築論書の記述を参照しながら、十分な根拠を伴うものとはいえないが、その始原についての仮説を提示する。
 さらに、ヒンドゥー教文化が残されているバリ島の「アスタ・コサラ・コサリ」などと呼ばれる建築論書の記述も参照しながら、当該の神観念の一部がバリ島にも継承されていると考えられることついて付言する。

【発表5】
発表者:下田 一太

発表題目:サンボー・プレイ・クックにおける寺院の伽藍配置と祠堂形式にみる信仰の形態

発表要旨:
 7世紀初頭,サンボー・プレイ・クック遺跡群に建立された宗教施設群は,複合的な伽藍を形成したクメール建築における最初期の事例である。中でもプラサート・サンボーやプラサート・イエイ・ポアンは主祠堂を中心に複数の方形の囲繞壁を巡らし,多数の祠堂を境内に配しており,後世のクメール寺院の祖型でありながら,その伽藍構成の特徴を良く示している。多くの祠堂には石製の台座が残され,それぞれに神像が祀られていたことは明らかで,伽藍全体で特定のマンダラ的な信仰の在り様が立体的に表現されていたものと推察される。  
本報告では,未だ断片的ではあるものの,各祠堂における尊像や伽藍における信仰のあり方について,伽藍の配置構成,出土した彫像,祠堂に施された装飾や図像,碑文の記述等をもとに考察したい。

参加申し込み:
参加ご希望の方は、5月4日(土)までに以下3点を下記の連絡先までお送りください。
➀お名前
➁ご所属
➂参加希望(ワークショップのみ参加/ワークショップ・懇親会の両方に参加)

申込先:久保 真紀子(makiboku05[atmark]yahoo.co.jp)