2011年7月5日

7/14 「国家形成と地域社会-カンボジア官報を利用した総合的研究」2011年度第2回研究会

京都大学東南アジア研究所「東南アジア研究の国際共同研究拠点」共同研究「国家形成と地域社会-カンボジア官報を利用した総合的研究」(研究代表者:笹川秀夫、立命館アジア太平洋大学アジア太平洋学部准教授)では、以下のように、本年度第2回目の研究会をおこないます。 (本年度第1回は、日本カンボジア研究会第5回研究会との共同開催でした。詳細は、こちらをご参照ください。)

今回は、「国家建設をめぐる制度と政治:1979年以降のカンボジアの経験」と題して、極端な全体主義的支配を敷いたことで知られるポル・ポト時代以後に、カンボジアにおける「国家」がどのように建設されてきたのかを、法制度と国内政治の分析を中心に議論します。
さらに、アフリカ地域研究と国際政治の専門家をコメンテーターとして迎え、以上のカンボジアの経験が、近年のアフリカ諸国などですすむ<国際支援下の国家建設>という問題状況とどのような共通性・独自性をもつのかを考えます。

オープンな研究会ですので、ご関心をもたれる方はぜひお気軽にご参集ください。

日時: 2011年7月14日 (木曜日) 午後3時-午後6時
場所: 京都大学東南アジア研究所・共同棟四階 会議室

* 東南アジア研究所へのアクセスは、
http://www.cseas.kyoto-u.ac.jp/about/access_ja.html を御参照下さい。

プログラムは以下の通りです。

15:00 小林 知(東南アジア研究所)「趣旨説明」

15:20 坂野 一生(神戸大学大学院国際協力研究科博士後期課程)
「1979年以降のカンボジア民事法制――体制移行と法制度」

16:20 山田 裕史(日本学術振興会特別研究員PD)
「カンボジア人民党による一党支配体制の構築:民主的制度の権威主義的運用」

17:20 コメント1:アフリカ地域研究から 西 真如(京都大学東南アジア研
究所)
コメント2:国際政治から 佐藤 史郎(京都大学東南アジア研究所)

18:00 ※懇親会

以下、発表要旨
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「1979年以降のカンボジア民事法制――体制移行と法制度」
坂野一生

1979年のカンボジア人民共和国成立以来、カンボジアは法制度・司法制度の再建に取り組んできた。民主カンプチア時代の「法ニヒリズム」により既存の法制度・司法制度が徹底的に破壊され、立法のノウハウを有する人材や法の適用を担う法曹がほとんど存在しない中、国内の法制度の再整備と司法制度の再構築は困難を極め、必要な法律が不足するという「法の欠缺」状態が長く続くこととなった。
1989年の憲法改正により、従前の社会主義路線が修正され、土地の私有が認められた。市場経済化の動きは、1992年からの国連の暫定統治により加速し、1993年のカンボジア王国憲法においては、国の経済体制として市場経済システムが正式に採用されたことから、今までになかった経済活動を規律する多くの法律が必要となった。これらの法律の起草については、様々なドナー国及び国際機関による技術支援が行われたが、これらの技術支援はしばしば支援する側の法的バックグラウンドを基に行われ、また、カンボジア政府内にはあるべき法体系についての統一認識が見られなかったことから、互いに抵触する法律が同時に存在するという事態を招いた。1979年以降、私法の一般法である民法が制定されなかったことが、この事態をより深刻なものにした。
本報告では、1979年以降のカンボジア民事法制を概観し、法制度及びそれを運用する司法制度の整備状況とその特徴を、時代を区分して明らかにしようと試みる。また、個別の法律間の抵触の例を取り上げ、今後の課題と考え得る解決策を提示する。

「カンボジア人民党による一党支配体制の構築:民主的制度の権威主義的運用」
山田 裕史

カンボジアは本年10月、同国における民主的政治制度導入のきっかけとなった「カンボジア紛争の包括的な政治解決に関する協定」(=パリ和平協定)の締結から20周年を迎える。国連暫定統治下での制憲議会選挙を経て1993年に発足した現体制下では、憲法が停止・中断されることなく正常に機能し、複数政党が参加する選挙が定期的に実施されている。いまやカンボジアは、ASEAN諸国の中では比較的「民主的」な国家とみなされるようになった。
しかしその一方で、1993年体制下のカンボジア政治の実態は、1980年代との継続性を強く保っている。すなわち、同国では民主的政治制度の導入後も、カンボジア人民党による権威主義的な政治運営が継続しているのである。その結果、1990年代初頭にみられた「民主化」への流れは大きく後退し、2000年代末までに人民党による一党支配体制が成立するにいたった。
それでは、いかにして人民党は民主的政治制度を維持したまま、一党独裁を敷いた1980年代よりも堅固で安定した体制を構築することができたのだろうか。本報告では、マルクス・レーニン主義を放棄した1991年以降の人民党の党内動向に着目しながら、現体制下における「党と国家の関係」について検討したうえで、人民党による選挙制度構築とその運用、議会運営、社会の統制について考察する。