氏名:笹川秀夫
所属:立命館アジア太平洋大学アジア太平洋学部教授
報告タイトル:カンボジア仏教寺院に関する歴史・地理データのデジタル化とGIS(地理情報システム)による分析
要旨:
報告者は過去10年ほど、東南アジア大陸部の上座仏教を扱う共同研究に複数参加してきた。こうした研究活動のなかで、20世紀初頭から1970年代半ばまでのフランス語版官報から、カンボジアにおける寺院の建立、寺院内の建造物、種々の学校設置などに関するデータを約6,000件入手した。一方、宗教省による国内全寺院のリストも入手し、これらのデータをエクセルに入力する作業を行なった。
宗教省のリストは地名や寺院名に誤記が多く、紙版の地図や国勢調査のCD-ROMを用いて修正する必要がある。あわせて、CD-ROMから村の位置を転記することで、未訪問の寺院もデジタル地図上に表示することが可能になる。さらに近年では、Google Mapの衛星写真でカンボジア部分の精度が上がっており、ストリート・ビューで疑似的に「歩く」ことでできる道も増えている。ストリート・ビューで山門(クラオン・トヴィア)に記された寺院名を確認することで、パーリ語に由来する正式な寺院名と、クメール語起源の通称に関する情報を加えることも可能になる。
こうした地理データの入力と並行して、地理データと歴史データを照合し、官報に見られる寺院が現在のどの寺院に相当するかを確定する作業も進めてきた。上述のような作業を一通り終えたことから、本報告ではこれらのデータをGIS(地理情報システム)で処理することにより、カンボジア仏教についてどのように理解を深められるかを検討する。具体的には、郡や区ごとの寺院数の全国的な分布、人口や人口密度と寺院数の関係、官報での初出年と地理的な分布の関係、僧侶および世俗の学童に対する教育政策の浸透過程などを可視化することで、議論を進めたい。