2016年5月24日

6/12 Abstract(6)

発表要旨(6) 新谷春乃 Shintani Haruno

「クメール共和国期における歴史叙述の変容と多様化」
“The Changes and Diversification of National History under the Khmer Republic”

本報告は、歴史叙述の担い手、新聞メディアや各種歴史書、歴史教科書の言説分析を通して、クメール共和国期(1970-75年) の自国史をめぐる歴史叙述の変容と多様化について論じる。1970年3月の対シハヌーク打倒クーデタは、シハヌークに独占されていた歴史叙述から脱却し、 担い手や語りの多様化を生み出した。クーデタ後、言論の自由が一気に広がる中で、これまで抑制されていた歴史観も含めて、様々な歴史観が噴出し、数多くの歴史書が書かれた。現在のカンボジア国内で最も広く読まれているカンボジアの通史『クメール史』(トラン・ギア著)もこの時代に書かれたものである。
当時の歴史叙述を牽引した知識人らの特徴とその叙述内容から、当時展開された歴史叙述は、当時のカンボジアを取り巻く国内外の政治に強く規定されたものであり、特にここで検討する歴史書や歴史教科書は政権の政治的主張と密接に関係している。現政権批判のために歴史を引用する者がいる一方で、現政権の主張を肯定、強化するために歴史を発掘、解釈し直す動きが活発化した。本報告は、独立後カンボジアにおいて自国史を巡る議論、研究が最も盛んになったクメール共和国期に焦点を当て、そこでいかなる議論、研究が展開されたか明らかにするとともに、そこで構築された歴史観が現在へと連続性を持っていることを指摘する。