2025年6月9日

発表要旨(4)

 下條尚志(SHIMOJO Hisashi)神戸大学

「水上集落の形成と日常政治:トンレサップ湖南部の湖畔から考えるカンボジア・ベトナムの間隙」

“The Creation and Everyday Politics of Floating Settlements on Water: The Elusive Space between the Cambodian and Vietnamese States Seen from the Southern Tonle Sap Lakeshore”

(発表要旨)

発表者はメコンデルタ多民族混淆社会で調査を行ってきたが、それと連続性のある社会として2023年以来トンレサップ湖南部の水上集落に着目し始めた。当初はベトナムと関連の深い住民を主な対象に集落の理解を試みたが、水上民への調査を行うなかでその前提を再考する必要性を理解した。理由は①現/元水上民はベトナム系住民に限られないこと、②水上民は元々の住民に加えポル・ポト政権崩壊後の1979年以降にカンボジア、ベトナム各地から移住した者がいること、③水上生活をやめ陸地で暮らし始めた住民にはクメールやチャムが比較的多く見られることが挙げられる。

近年カンボジアでは、漁区システム廃止や漁獲量増加に伴う環境変化と、国家による陸地への定住化政策により水上民は生活の変化を迫られている。他方で、1979年以降のベトナムからの移住者の多くは無国籍状態であり、しばしば「ベトナム人」と括られ、強制排除の対象にはなるが、定住化政策の埒外に置かれている。本発表では、水上集落の形成過程とそこでの日常生活のなかで見える政治を検討する。