2025年6月9日

発表要旨(7)

下田麻里子(SHIMODA Mariko)早稲田大学

「前近代カンボジア上座部仏教寺院におけるシーマー石の変遷とその歴史的背景:考古学的視点からのアプローチ」
“The Evolution of Sīmā Stones in Pre-Modern Cambodian Theravāda Buddhist Temples: An Archaeological Perspective on Historical Context”


(発表要旨)
本発表の目的は、13世紀から16世紀におけるシーマー石の変遷を明らかにすることで、カンボジア上座部仏教文化における連続性や画期、およびその歴史的背景に迫ろうとするものである。
シーマー(結界)石は、仏教寺院において聖域と俗世界を区別するための標識として用いられ、その形態、図像、設置方法は時期によって変化する。彫像などと同じく、各時期の思想や文化的影響を反映しやすいシーマー石は、仏教寺院の年代や仏教文化の変遷を検討する上でも重要な指標となる。しかし、カンボジアで上座部仏教が受容・形成される当該時期に関するシーマー石の記述は断片的であり、体系的研究はこれまで行われていない。
本発表では、先行研究で触れられてきたアンコール地域のシーマー石に加え、15世紀から16世紀の王都があったとされるトゥール・バサンースレイ・サントー地域やロンヴェークーウドン地域、そして地方寺院の事例も加え、形態による分類を行い、図像、サイズといった多角的な検討を加えることで、カンボジアの13世紀から16世紀におけるシーマー石編年案を提示する。また、発表者らによる最新の発掘調査成果を踏まえ、シーマー石設置方法の変化から結界構築に関する概念の変化についても検討する。最終的にはこれらに基づいて各時期や地域における上座部仏教文化の連続性と画期について考察する。結論として、シーマー石の変遷が前近代カンボジアの上座部仏教文化の進展とどのように関係しているかを示し、その歴史的背景を明らかにすることを目指す。