2025年1月23日

シンポジウム「バイヨンの謎の解明とその保存をめぐって」

このたび、日本国政府アンコール遺跡救済チーム(JSA)結成30年を迎え、下記の通り国際シンポジウムを開催いたします。
皆様のご来場を心よりお待ちしております。

バイヨンの謎を解明し、その保存が希望となることを願って、JSA/JASA は 30年挑戦を続けてきた。バイヨンは謎に満ちている。その謎は深く、そして魅力的である。バイヨンの尊顔とは何か。バイヨンの複雑な空間構成と多様な形態は度重なる増改築と、まさにパンテオンと呼ぶべき神々の重層的な複合によるだろうが、その背景に何があったのか。サンボー・プレイ・クック、プレア・ヴィヘア、バンテアイ・スレイ、バプーオン、アンコール・ワット等、クメール都市・建築史のメルクマールとなる遺跡群の発展の系譜はクメール建築史の正統の道と考えられるが、12世紀後半になって突然のように出現したバイヨンはそれまでの歴史において類をみない異端であった。このバイヨンの創成はクメールの歴史において何を意味するのであろうか。従来、クメール・アンコール建築史研究は美術、様式史研究に重点が置かれてきたため、建築の設計・配置方法や基壇基礎の版築工法、建築構造については未知の分野が多く残されていた。私たち JSA/JASA はアンコール研究および保存修復に着手して以来、本年で30周年を迎えたが、先に挙げたバイヨンの謎の背景にある建築の設計・配置方法と基壇基礎の版築工法にこそ、インド文明の影響を受けつつも伝統と地質、気候などの自然風土に根差した独自の建築都市文化をクメールの祖先たちが築いてきたことの秘密があること、そしてその長い道のりの集大成であり、そこからの新たな飛躍の象徴がバイヨンの創成であったと考えている。そしてバイヨンに象徴されるアンコールの謎と希望を、我々 JSA/JASA はアンコールファミリーの一員として、様々な分野において今まさに危機に瀕している世界にむけて発信し、共に前進することを願っている。
中川武(JSA団長・JASA共同代表)

日  時:2025年2月1日(土) 15:00-18:00(開場14:30)
会  場:早稲田大学大隈記念講堂 小講堂
参加費:無料

プログラム:
開会のことば
 中川武(JSA団長・JASA共同代表)
来賓ご挨拶
1.主旨説明:JSA/JASAの30年のプロジェクト概要
 中川武(JSA団長・JASA共同代表)
2.基調講演1 : バイヨンに関する伝承(英語)
 Ang Choulean(カンボジア王立芸術大学)
3.基調講演2 : JSA/JASA30年の活動の評価と意義(英語)
 Mounir Bouchenaki(ICC-Angkor/SPKアドホック専門家)
4.各分野報告:
 バイヨンの考古学
  田畑幸嗣(早稲田大学)
 バイヨンの3Dスキャン
  大石岳史(東京大学)
 アンコール遺跡の微生物
  片山葉子(東京文化財研究所)、Gu Ji-Dong(広東イスラエル工科学院)
 バイヨンの保存科学と浅浮き彫りの保存修復計画
  河﨑衣美(奈良県立橿原考古学研究所)、松井敏也(筑波大学)
 アンコール地域の地盤工学とバイヨン中央塔保存修復工事計画
  岩崎好規(地域地盤環境研究所)
 バイヨンの建築構造学と中央塔上部構造の対策
  山田俊亮(安田女子大学)
 バイヨン本尊仏のレプリカ模刻
  矢野健一郎(矢野造形技法研究所)
5.討論とまとめ : JSA/JASAのこれまでの活動に関する評価と今後の課題(日英)
 Mounir Bouchenaki(ICC-Angkor/SPKアドホック専門家)、中川武(JSA団長・JASA共同代表)
閉会のことば
 中川武(JSA団長・JASA共同代表)
司会進行
 小岩正樹(早稲田大学)

JSA/JASA(日本国政府アンコール遺跡救済チーム + APSARA)、UNESCO
共催:早稲田大学理工学術院総合研究所
後援:NPO法人 GREEN WIND ASIA


なお、ご参加をご検討いただけます方は、誠に恐れ入りますが、事前に、以下のURLよりご出欠のご連絡を賜りますようお願い申し上げます。
出欠回答URL:


問い合わせ先:早稲田大学創造理工学部建築学科建築史系小岩正樹研究室
〒169-8555 東京都新宿区大久保3丁目4-1
早稲田大学(西早稲田キャンパス)55号館N棟8階10号室
Tel:03-5286-3275
([@]を@に変換)

2024年7月8日

第17回日本カンボジア研究会のオンライン参加の事前登録について

オンライン参加を希望される方は,下記のGoogleフォームより事前登録をしてください。

対面で参加される場合は,事前登録の必要はございません。

事前参加登録フォーム: https://forms.gle/z9Coxdr7wjeCc8GX9

事前登録いただいた方には,自動返信にて当日のZoomURLをお送りいたします。

自動返信メールが届かない場合は,佐藤までご連絡ください

(satonao[at]kinjo-u.ac.jp  ※メール送信の際は[at]を@に置き換えてお送り願います)。

回答締切: 2024年7月12日(金)


2024年6月24日

ブックトーク: Theara Thun, Epistemology of the Past: Texts, History and Intellectuals of Cambodia, 1855–1970

<ブックトーク>Theara Thun, Epistemology of the Past: Texts, History and Intellectuals of Cambodia, 18551970

 

開催日時:2024626日(水)16:4518:00

開催場所:京都大学東南アジア地域研究研究所東棟 1階リサーチ・コモンズ

開催方法:ハイブリッド

※要参加登録:https://kyoto.cseas.kyoto-u.ac.jp/event/20240626/

 

使用言語: 英語
発表者: テラ・トゥン (香港大学研究員、京都大学東南アジア地域研究研究所連携助教)
司会者: 土屋 喜生(京都大学東南アジア地域研究研究所)


要旨:

 東南アジア研究において、在来の歴史記述法と西洋の歴史学手法との出会いについては長らく注目されることがありませんでした。テラ・トゥン氏はEpistemology of the Past: Texts, History, and Intellectuals of Cambodia, 18551970(過去の認識論─1855-1970年におけるカンボジアのテキスト・歴史・知識人)において、2つの特徴的な歴史表現様式の接触とそれが社会にもたらした影響を、初めて批判的かつ体系的に叙述しました。カンボジアの前植民地支配期、植民地支配期、独立後の歴史言説を検証することで、さまざまな視点を持つカンボジア人学者たちが、互いに異なる歴史像を提唱していたことを明らかにしています。
 本書は、東南アジア研究における最大の在来言語資料のコレクションを紹介しています。著者は前植民地支配期の歴史記述法が、西洋の歴史学手法と並行して存続し、独自の認識論をもつユニークな知識体系を作り上げたと論じています。本書は、植民地期および独立後の東南アジア、特に在来の認識論、知識生産の歴史、異文化交流と翻訳、さらに歴史の叙述に関わる研究にとって、きわめて重要な貢献となるでしょう。

書籍情報: Theara Thun, Epistemology of the Past: Texts, History, and Intellectuals of Cambodia, 18551970, University of Hawaii Press, 2024.

略歴:テラ・トゥン氏はカンボジア出身の歴史研究者。現在、香港大学研究員、リー・コン・チアン シンガポール国立大学(NUS)–スタンフォード大学東南アジア研究特別研究員(202425年度)。京都大学東南アジア地域研究研究所特定研究員(20192022年)。

 

 


2024年6月8日

第18回 日本カンボジア研究会 プログラム

第18回日本カンボジア研究会のプログラムをお知らせ致します。

今年度も対面とオンラインのハイブリッド形式で実施いたします。

カンボジアに関わる話題を広く取り上げて議論する機会として,皆さまのご参加をお待ちしております。

オンライン参加については,事前に参加登録をお願いすることになります。追って,参加登録のご連絡させていただきますので,よろしくお願いいたします。

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期日:2024年7月13日(土)・14日(日)

開催形態:対面兼オンライン

開催場所:名古屋大学東山キャンパス アジア法交流館2階・カンファレンスルーム(愛知県名古屋市千種区不老町)

名古屋大学東山キャンパス(名古屋市千種区不老町)
https://www.nagoya-u.ac.jp/contact/directions.html
アジア法交流館2階・カンファレンスルーム (キャンパスマップC5-3

https://www.nagoya-u.ac.jp/extra/map/index.html

主催:日本カンボジア研究会

共催:名古屋大学法政国際教育協力研究センター(CALE)


7月13日(土)

12:00 開場

12:30~12:40 趣旨説明【対面】


12:40~13:30 発表(1)【オンライン】

横山未来(YOKOYAMA Miku)早稲田大学

福田莉紗(FUKUDA Risa)早稲田大学

「カンボジア考古学の教育普及―子ども向けワークショップの実践と課題」

“Educational Diffusion of Archaeology in Cambodia: Practices and Challenges of Children's Workshops”

発表要旨は、こちら


13:40~14:30 発表(2)【対面またはオンライン】

東佳史(AZUMA Yoshifumi)立命館大学

「「面従腹背」から「無気力」へ?―2022-3年カンボジア選挙結果分析」

“ 'False Obedience' or Apathy: Some Statistical Data Analyses on the 2022 and 2023 Elections”

発表要旨は、こちら


14:40~15:30 発表(3)【オンライン】

山田裕史(YAMADA Hiroshi)新潟国際情報大学

「強化されるフン・セン体制―2023年カンボジア総選挙と世襲内閣の誕生」

“The Strengthening of Hun Sen's Rule: Cambodia's 2023 National Assembly Elections and the Birth of the Hereditary Regime”

発表要旨は、こちら


15:40~16:30 発表(4)【オンライン】

イェン・チョリダー(EAN Chhorida)王立法経済大学

「カンボジアにおける裁判外紛争解決国家機構―新しい法律専門職業への導入」

“Alternative Dispute Resolution Authority in Cambodia: An Attempt to a New Legal Profession”

発表要旨は、こちら


16:40~17:10 発表(5)【対面】

<高校生によるグループ発表> 

西川公一朗(NISHIKAWA Koichiro)、佐藤遼太郎(SATO Ryotaro)成城高等学校

「カンボジア農村部におけるダンプヤード撤去は可能か?」

“Is it Possible to Abolish Dump Yards in Rural Cambodia?”

発表要旨は、こちら


17:20~18:10 発表(6)【対面】

宮島良子(MIYAJIMA Ryoko)名古屋経済大学

レイン幸代(LENG Yukiyo)国際交流基金 海外派遣日本語専門家

「クメール語による議論的作文の特徴」

“Characteristics of Argumentative Composition in Khmer”

発表要旨は、こちら


●懇親会(希望者のみ)


7月14日(日)

9:30 開場

10:00~10:50 発表(1)【対面】

北川香子(KITAGAWA Takako)学習院女子大学

「チ・ハエ興隆史」

“Rise of Chi Haer, a Chinese Village on the Mekong”

発表要旨は、こちら


11:00~11:50 発表(2)【対面】

宮沢千尋(MIYAZAWA Chihiro)南山大学

「アジア・太平洋戦争期の日本のカンボジア関与の一側面―大川塾卒業生西川寛生の日記から」

“One Aspect of Japan's Involvement in Cambodia during the Asia-Pacific War Period: From the Diary of Hiroo Nishikawa, “Okawa Juku” Graduate”

発表要旨は、こちら


11:50~13:00 昼休憩


13:00~13:50 発表(3)【対面】

ジア・シュウマイ(CHEA Seavmey)国土整備・都市計画・建設省

「アンコール遺跡のゾーン1とゾーン2における不法居住者の問題」

“The Study on Land Occupancy Issues in Angkor Site Zone 1 and Zone 2”

発表要旨は、こちら


14:00~14:50 発表(4)【オンライン】

CHIM Vutheavy, National Institute of Education

SOEUNG Sopha, National Institute of Education

“Cambodian Students' Kindergarten Experience towards Khmer Subject at the Private International Schools”

発表要旨は、こちら


15:00~15:50 発表(5)【対面】

劉澤文(LIU Zewen)下関市立大学

「カンボジアにおける中国企業による商業農産物の栽培と輸出―クロチェヘ州における大規模バナナ農園の事例から」

“Commercial Agricultural Production and Export by Chinese Companies in Cambodia: A Case Study of Large-Scale Banana Plantation in Kratie Province”

発表要旨は、こちら


16:00~16:50 発表(6)【対面またはオンライン】

吉田尚史(YOSHIDA Naofumi)早稲田大学/東京都福祉局

「在留カンボジア人労働者の健康課題とその実情―「技能実習」「特定技能」を対象として」

“Cambodian Workers' Health Issues and their Actual Conditions in Japan: Targeting“Technical Intern Training”and“Specified Skilled Worker”

発表要旨は、こちら

発表要旨(1)

横山未来(YOKOYAMA Miku)早稲田大学

福田莉紗(FUKUDA Risa)早稲田大学

「カンボジア考古学の教育普及―子ども向けワークショップの実践と課題」

“Educational Diffusion of Archaeology in Cambodia: Practices and Challenges of Children's Workshops”

(発表要旨)

 本発表は、考古学の教育普及活動の一環として、カンボジアをテーマに行った子ども向けイベントについての報告と今後の課題に関する検討を行うことを目的とする。発表者らは、考古学専攻の大学院生としての専門性および教育コンサルティングで培ったノウハウを活かした考古学の教育普及を行う任意団体を立ち上げ、子どもたちを対象に考古学の魅力と学際性を伝える活動を展開している。今回は2023年1月13日に実施した「VRで古代のカンボジアにタイムスリップ!」というイベントを中心に、考古学や文化遺産教育から広がる多様な学びの可能性について紹介する。ならびに、アンケートから見えてきた今後の国内における外国考古学の研究成果の還元や将来的な現地での教育普及活動の課題について検討する。


発表要旨(2)

 東佳史(AZUMA Yoshifumi)立命館大学

「「面従腹背」から「無気力」へ?―2022-3年カンボジア選挙結果分析」

“ 'False Obedience' or Apathy: Some Statistical Data Analyses on the 2022 and 2023 Elections”

(発表要旨)

 本発表は2018年第100回東南アジア学会にて発表した「抵抗」と「面従腹背」の間 ; 2018年カンボジア総選挙結果分析」の続編である。2023年7月23日に行われたカンボジア総選挙は最大野党であるキャンドルライト(CLP)党が参加資格剥奪という既視感のある中、有権者投票行動が注目された。中央・地方幹部逮捕を恐れたCLPはなすすべもない中、与党人民党は2018年の総選挙で見られたような威圧で応じ、与党の勝利が既定路線となった上で高い投票率を確保して選挙の正統性を担保する必要もなしに選挙はただの儀式と変容した。

 以上の構造的変化の下、総選挙は実施され、投票率は2018年総選挙の80.32%から78.28%に微減した。そして、CLPが参加できた2022年クム・ソンカット長選挙の80.32%からも減少している。これは約2割の有権者が棄権という「抵抗」を示したとも、無気力とも理解できよう。興味あるのは無効票の増加であり2018年の8.55%から5.34%と減少している。これは2018年では棄権が発覚する事による「嫌がらせ」を恐れた有権者の「面従腹背」すら不可能となった。2022年と2023年選挙結果を統計学的に分析すると2022年にCLPが得票した州での2023年選挙無効票の推移は興味ある結果が見られた。本発表ではNECの公表データとComfrel、NDE、EU等のオープンソースを統計学的分析を基に、2018年に見られた「面従腹背」すらも困難になった現状を検証する。

発表要旨(3)

 山田裕史(YAMADA Hiroshi)新潟国際情報大学

「強化されるフン・セン体制―2023年カンボジア総選挙と世襲内閣の誕生」

“The Strengthening of Hun Sen's Rule: Cambodia's 2023 National Assembly Elections and the Birth of the Hereditary Regime”

(発表要旨)

 与党・カンボジア人民党の圧勝に終わった2023年総選挙の直後、フン・セン首相は辞任を決断し、フン・マナエト首相を筆頭に人民党高級幹部の子どもたちを中心とする「世襲内閣」が発足した。なぜフン・センは大方の予想に反して早期の世襲に動いたのか。大幅に進んだ閣僚の世代交代はカンボジア政治においてどのような意味をもつのか。

 本報告は、アジア経済研究所において2023年5~10月に実施された機動研究プロジェクト「2023年カンボジア総選挙―ポスト・フン・セン時代に向けた集団的権力継承」と、2024年2月の上院選挙に関する現地調査の結果に基づき、上記の問いについて検討する。具体的には、2023年総選挙とその後の新内閣を中心とする国家機関および人民党指導部の人事の分析を行う。結論として、閣僚ポストが子世代に移譲されたことでフン・セン「政権」は終わったものの、フン・セン「体制」はこれまでよりも強化された形で続いていることを指摘する。